"ぶっきらぼうで笑わない女神"の恋愛事情
正面エントランスから出て来た真琴の背後には、飲料業界最大手TAKAMIDOホールディングス本社ビルがそびえ建っている。
真琴は経理部経理課所属。
肩甲骨まで伸びた黒く艶のある髪は、低い位置でバレッタ留めし、黒縁丸眼鏡はくっきりはっきりとした目元に、卵形の整った顔立ちを隠している。絵に描いたような事務系女子。
なるべく地味に、ひたすら地味に過ごしている。
真琴は都内の女子大を卒業し、新卒で採用された。旧帝大や難関私大出身者が占める中、異例の採用だ。本人よりも大学関係者が両手をあげて喜んだ。
ただ、母親の直子(なおこ)だけは違った。浮かない顔で「お母さんは反対よ」と。理由を訊けば、頭の良い人たちに交じって仕事をするなんて苦労するに決まっている。だそうだ。
通り過ぎる車のナンバープレートを無意識のうちに足し算してしまうほど、真琴は暗算が得意だ。確かにそれだけではやっていけないかもしれない。けれど、真琴にとって直子は反面教師。直子が苦労するということをあえて選択することにした。
それに、採用の決め手は最終面接で披露した暗算だったのではないかと思っている。
役員から暗算十段の腕前とはどんなものなのかと問われ、即席で用意された問題を難なくクリアし、その場にいた役員から「その能力をぜひ弊社で活かして欲しい」そう採用確定を仄めかす言葉をもらったからだ。
今日もその能力を使い、仕事を終えた。
自分の選択は間違っていない。真琴はそう信じている。
「さぁ、急がなきゃ!」
真琴は経理部経理課所属。
肩甲骨まで伸びた黒く艶のある髪は、低い位置でバレッタ留めし、黒縁丸眼鏡はくっきりはっきりとした目元に、卵形の整った顔立ちを隠している。絵に描いたような事務系女子。
なるべく地味に、ひたすら地味に過ごしている。
真琴は都内の女子大を卒業し、新卒で採用された。旧帝大や難関私大出身者が占める中、異例の採用だ。本人よりも大学関係者が両手をあげて喜んだ。
ただ、母親の直子(なおこ)だけは違った。浮かない顔で「お母さんは反対よ」と。理由を訊けば、頭の良い人たちに交じって仕事をするなんて苦労するに決まっている。だそうだ。
通り過ぎる車のナンバープレートを無意識のうちに足し算してしまうほど、真琴は暗算が得意だ。確かにそれだけではやっていけないかもしれない。けれど、真琴にとって直子は反面教師。直子が苦労するということをあえて選択することにした。
それに、採用の決め手は最終面接で披露した暗算だったのではないかと思っている。
役員から暗算十段の腕前とはどんなものなのかと問われ、即席で用意された問題を難なくクリアし、その場にいた役員から「その能力をぜひ弊社で活かして欲しい」そう採用確定を仄めかす言葉をもらったからだ。
今日もその能力を使い、仕事を終えた。
自分の選択は間違っていない。真琴はそう信じている。
「さぁ、急がなきゃ!」