地味系男子が本気を出したら。



「黄瀬くん…」

「常盤くんには絶対負けない。
だから頑張らせて。絶対君を笑顔にしてみせるから」


私が何度背けようとしても、あなたは真っ直ぐ見つめてくれるのね。

こんなにひねくれた私を、それでも想ってくれるんだわ――…

あなたとなら、恋をしてもいいのかしら?
この手を取ってもいいのかしら?

だけど、私にはまだ手を伸ばす勇気がない。
まだあなたの気持ちに応えるには、追いついてない。


「……わかった、もう逃げるのはやめる。
あなたとちゃんと向き合うわ」

「春日井さん……!」

「恋をしてみようって、前向きに考えてみる。
必ず返事をするから、もう少し待っててくれる……?」

「うん!もちろんだよ!」


もちろん、黄瀬くんのことだけじゃない、常盤くんのこともちゃんと考えなきゃ。
私なんかを好きだと言ってくれた二人の気持ちにきちんと向き合って、答えを出す。

それが誠意なのよね――。


「あの、一つだけお願いがあるんだけど」

「何?」

「下の名前で…呼んでもいい?」

「えっ?名前?」

「だって、さっちゃんのことはずっと名前で呼んでるし!
それに、常盤くんが名前で呼んでるのは…ずるいよ」


顔を赤くしながら何を言い出すかと思ったら…こちらまで赤面が移ってしまう。


「いいわよ」

「ほんとに!?」

「但し、ちゃんはやめて。なんか気恥ずかしいわ」

「ええ…じゃあ、桃?」

「…それでいいわ。私も大志って呼ぶから」

「いいの!?」

「あなただけ呼ぶのはずるいでしょ!」

「えへへ…」


名前一つでそんなに嬉しそうにするなんて。

…ほんとに調子狂うんだから。


だけど、私はまだ気づいていなかった。
本気を出した彼がどうなるのかを。


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