婚活
朋美が羨ましいな。隣の芝生はよく見えるとは言うけれど、営業は花形若手がワンサカいるし、取引先との打ち合わせなど他社の社員とコミュニケーションを取れる機会も多い。

私の場合は社内関係のみで、まさしくバッド・コミュニケーション。そして今日もファイルが足りないと上司に言われ、用度に連絡してもすぐには入らないと断られてしまい困っていると、珍しく上司がポケットマネーを差し出した。

「これで、買ってきてくれる?」

「はい。至急行ってきます」

やった! 外に出られるぞ。上司から3000円を受け取り、すぐさま行こうとして呼び止められた。

「沢村さん。会社名入りで、領収書忘れないでね」

「はい」

一応、笑顔で返事をしたが、しっかりしてるよなぁと腹の内ではそう思っていた。

仕事中に外に出るのは何となく得した気分で足取りも軽く、簡易的に3000円を入れてきた封筒をポケットにしまい、まずは100円均ショップへと向かう。

ここって、マイワールドだよなぁ。何時間居ても飽きない感じだけど、今日は目的のものだけしか見られない。あまり寄り道していても、怒られそうだし……。

ステーショナリーのコーナーといっても、ズラッと思いっきりファイルが所狭しと陳列してあって、1冊抜いたらなだれ落ちてきそうだ。そっと、それらしきファイルを抜き品定めを開始。

う~ん……。これだと、厚みがちょっと足りないかなぁ。元あった場所に戻そうとするが、目一杯並んでいたため戻そうにも思うように入らない。

「珠美?」

エッ……。

「あっ、和磨。良い所に居た。ちょっと、このファイル戻してよ」

すると和磨は黙って私からファイルを受け取ると、いとも簡単に棚に戻した。

「何やってんだ? こんなとこで」

「上司に頼まれてお遣いよ。和磨だって、こんな所で何やってんのよ。営業のくせに、さてはサボってるなぁ?」

「ハッ?サボってなんかいねぇよ」

これをサボりと言わず、何という?

「じゃぁ、何やってるのよ?」

「偵察してんの」

偵察?

「最近、こういう所でも付箋売ってたりするだろ?一応、我が社との違いを見るために見に来てるんだよ」

「ふぅ~ん……。物は言い様だもんねぇ」

怪しい視線で、和磨を見上げる。

「珠美。疑ってんだろ?ちゃんと、上司も一緒だよ」

「えっ?上司?」

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