婚活
そうだった。毎年紅葉の時期になると、何故か三人で見に行く習慣になっていて、今年もそんな時期になったんだ。でも、今年は……。思案していると、携帯が振動して着信を知らせていた。
「ごめん。ちょっと待って」
裕樹を待たせて電話に出る。
「もしもし」
「沢村様でいらっしゃいますか?先ほどお電話を頂きました……」
もう掛かって来ちゃったよ。
「先方とご連絡が取れまして、来週の土曜日なのですがご都合如何でしょうか?」
エッ・・・・・・。
「土曜日……ですか?」
「ご都合悪かったでしょうか?」
裕樹と和磨と紅葉を見に行こうと今話していたのも、来週の土曜日。そして未来王子とのアポイントも来週の土曜日。どうする?
「あの……ちょっと調整出来るかどうか確認してみますので、お時間頂けますでしょうか?」
何、言い出してるんだろう。自分の将来の事と紅葉とどっちが大事なんだよ。
「かしこまりました。それでは、出来ましたら水曜日までにお返事下さいますよう、先方にもまたその旨、お話しておきますので、お願い出来ますでしょうか?」
「はい、承知しました。ご無理お願いして申し訳ありません……失礼します」
携帯を握っていた手が汗をかいている。何、やってるんだろう。私……調整するって、何をどうするのよ。
「何?今の電話」
「うーん、あまり乗り気じゃない合コン」
あまり乗り気じゃないとか、何、口走ってるんだか……。
「合コンかぁ。出逢いも大事だけど、紅葉は待ってくれないからな。天気予報も今のところ晴れみたいだし、絶好の紅葉見物になりそうだぜ?」
裕樹……。
「ちょっと考えさせて。もし行けそうになかったら、今年は二人で行ってよ」
「姉貴?」
「しょうがないじゃない。合コンだって大事なんだから」
裕樹の突っ込みが入る前に、間髪入れずに言い訳をする。
「そうじゃねぇよ。和磨と何かあった?」
「えっ?」
相変わらず、裕樹は鋭いな。
「べ、別に、何もないわよ」
「ふぅーん」
「何よ。姉に向かって、その意味深な言い方は」
一応、姉の威厳を保ちつつ、ジャブを入れられた事に弟とはいえ、戸惑いを隠せない。
「まぁ、早めに決めてくれよ。姉貴が行かないんだったら、また違ってくるし」
「違ってくる?」
「……」
黙っている裕樹を見て、ピンと来た。あぁ、そうか。彼女でも誘うつもりなんだ。勝手にしてよ。まったく……。
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