婚活
「わかったわよ。なるべく早く決めるから」
私の返事を最後まで聞くか、聞かないうちに、裕樹は背中を向けて手を挙げながら部屋から出ていってしまった。
紅葉か……。
そう言えば、毎年何の違和感もなく三人で行っていたな。でも……という事は、和磨はOKしたって事?嫌いとか言ってたくせに何でよ?本当に理解不能なんだから。未来王子か?紅葉か?まったく次元の違うダブルブッキングに、どちらを選択するべきか、何故に迷ってるのか?
週明けの月曜日を迎えても、まだ結論は出ていない。仕事を終え、最寄り駅を降りると、改札口で見覚えのある後ろ姿を見つけた。
和磨……。
同じ電車だったんだ。相変わらず手を肩まで挙げ、ビジネスバックをショルダーでもないのに肩のところで持ちながら、何とも優雅に歩いている。きっとあのバッグ、中身何も入ってないんだ。だからあんな軽そうに持って……。あっ。嫌だ、嫌だ。何、和磨の背中を凝視してるのよ。しかし、途中、自販機でタバコを買っていた和磨に追いついてしまった。
「お疲れ」
その言葉だけを言いながら、身体を屈めて自販機からタバコを取り出している和磨の横を 通り過ぎる。
「土曜は合コンなんだってな。本当は見合いなんじゃねぇの?」
「……」
図星の和磨の言葉に立ち止まる。
「さぁ……。和磨のいいように思えばいいわよ」
背中を向けたままそう言って、また歩き出していた。どんな顔で和磨が私の背中を見てるのか、だいたい想像がつく。私が嫌いなんだったら、もう放っておいて欲しい。そんなに強くないんだよ、私……。少しして 和磨の足音が近づいてくるのがわかった。
「珠美」
「何?」
思わず、キッと睨みながら和磨を見上げる。
エッ・・・・・・。
想像していた和磨の表情とは、全然違って……和磨は穏やかな笑顔を浮かべていた。
「な、何よ?」
その笑顔に面食らってしまい、虚勢を張ってしまう。
「今年も紅葉見に行こうぜ?珠美が行かなきゃ、からかう相手がいなくて面白くないし……」
話しを途中で中断し、和磨は微笑みながら箱の封を切って1本タバコを取り出し、立ち止まってタバコに火を付けると、煙たそうな顔をしながら私を見た。
「張り合いないジャン」
和磨……。
「だろっ?」
口にタバコを咥えたまま、煙たそうな顔の和磨を黙ったまま見上げる。
「何だよ?」
「和磨。私……うわっ」
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