婚活
いきなり和磨が私の腕を引っ張り、歩道の端に寄せた。すると後で、ビュッと風を切るように自転車が通り過ぎて行くのが背中越しにわかった。
「随分スピード出してるなぁ。車道走れよ」
「和磨……」
「あぁ、話し途中だったな。何?」
私は何を和磨に言おうとしてるんだろう?未来王子の事を話したところで、和磨には何ら関係ないんだよね。
「ごめん。言う事忘れちゃったよ」
「……」
黙っちゃった。通用しなかったか、この誤魔化しは……。
ちょうど信号が点滅し出したので、それをいい事に横断歩道を走り出す。逃げるわけではないけれど。
「珠美。待てよ」
後で和磨の声が聞こえ、横断歩道を渡り終えた時には和磨に抜かされていた。振り向いた和磨が私の行く手を阻み、いかにも軽そうな中身の入っていないバッグを右手に持ったまま、腕を組みながらこちらを見ている。
「な、何?」
「何じゃねぇだろ。珠美が俺に、何か話しがあるんじゃねぇの?」
和磨には、やっぱり誤魔化せなかったんだ。
「うん……。厳密に言えば話しがあったんだけど、よくよく考えたら今話すべき事じゃなかったから……。だから……」
「ふぅーん。まぁ、いいや。取り敢えず、裕樹から聞いたかもしれないけど、土曜日空けとけよな」
エッ・・・・・・。
空けとけって……まだ私、行くとも何も言ってないのに。
「和磨。だって、まだ私……」
「じゃぁな」
「ちょ、ちょっと和磨。待ってよ」
ちょうど和磨の家に曲がる路地のところまで来ていて、和磨は左手を挙げ、路地を曲がっていってしまった。何なのよ。和磨の奴、言いたい事だけ言ってさっさと行っちゃって、いくら裕樹と三人で毎年の恒例行事とはいえ、嫌いだとか言っておきながら、一緒に紅葉見に行こうと言ってみたりして……。和磨の後ろ姿に向かって舌を出し、あっかんべぇをして見せた。
あっ……。
すると、思いっきり舌を出していた酷い顔を、不意に振り返った和磨にばっちり見られて和磨に見られてしまった。
「ばぁーか」
そんな私を見て、一瞬笑った和磨は、声には出さず大袈裟にこちらに向かって口を動かすと、そのまま玄関のドアを開けて家の中へと入っていった。馬鹿とは何よ、馬鹿とは。
気を取り直して歩きながら、あと1分ぐらいで着く家を目指す。もうすぐ家の前っていうところで携帯が震えだし、慌ててポケットから携帯を取りだし画面を開く。
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