婚活
なるべく気持ちを落ち着かせようと、コーヒーをひと口飲む。これじゃ、まるでどっちが当事者か、わからないじゃない。
「その事だけど、珠美。私、子供は産まないつもりなんだ」
エッ･･････。
「朋美。それどういう事？小林さんには、ちゃんと話したの？」
恐れていたというか、絶対聞きたくなかった言葉だった。朋美に限って、まさかそんな事を言い出すとは思ってはいなかったけれど、万が一という、心の何処かに不安を抱いていたのも確かで……。
「小林さんにもちゃんと話したよ。まだ病院に行って確かめた訳じゃないけど、もしかしたらって事でね」
何故だろう？私一人で焦っているみたいで、朋美はどうしてこんなに落ち着いていられるの？自分の事なのに……。大袈裟かもしれないけれど、生命が関わってる事なのに、何故？聞くのが怖いな。でも小林さんの応えを聞かなくちゃ。朋美の気持ちも、ちゃんと確かめなきゃ駄目だ。一時の感情で済まされる事ではない。重大な事なんだから。
「小林さんは、何て言ってるの？」
「……」
朋美が小林さんの名前を出した途端、怪訝そうな顔をして私から視線を外し、天井を見上げてしまった。
「朋美？」
まさか小林さんは、反対したとか？そんな事、まさか……だよね？
「じゃぁって言ったのよ」
「えっ？」
「私がね。もしかしたら妊娠したかもしれないって言ったら、じゃぁ結婚しようかって言ったの」
朋美……。
「じゃぁって、何なんだと思う？じゃぁって、それってまるでついでとか、仕方ないとか、そんな負のイメージじゃない？」
「……」
何と返事をしていいのかわからず、黙ったままジッと朋美の顔を見ているだけの私は、日本人でありながら、日本語の言葉の奥の深さを今更ながらに感じていた。
「ひとつの命が誕生するかもしれないのにさ・・・じゃぁって何よ　あの人からしたら　普通に口を突いて出た言葉なのかもしれないけど　私にしてみたら　そういう風な捉え方しか出来なかったの」
「朋美」
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