婚活
朋美が妊娠……。まだ決まったわけじゃないけれど、でもたったひと言で生命を……。あぁ、それでいいのかな?いいわけないよ。でも小林さんは、不安になりながらやっとの思いで話した朋美に、何でそんな言い方をしたんだろう?朋美と別れてからの帰り道、そんな事を考えながら歩いていると、和磨の家に曲がる路地に差し掛かった。二階の和磨の部屋の電気が付いている。居るんだ、和磨……。もし和磨が小林さんの立場だったら、何と言うだろう?じゃぁとか、やはり切り出したりするのだろうか?立ち止まり、和磨の部屋を見上げた。もし私が朋美の立場だったとして、相手に「じゃぁ結婚しようか」と言われたら、その言葉をどんな気持ちで受け止めるんだろう?朋美と同じような気持ちになる気がするけれど、俗に言う、お腹の子供に罪はない。
エッ……。
その時、窓際に人影がして、いきなり和磨の部屋の窓が開き、和磨の姿が見えるや否や、思いっきり和磨と目が合ってしまった。
「珠美。そんなところで、何やってんだよ?」
最悪……。
「べ、別に。通りかかっただけよ」
「ハッ?とっくの昔に、帰ったんじゃなかったのかよ?」
和磨は朋美と会っていた事を知らない。
「あれからまた出掛けたの。じゃぁね」
「珠美。ちょっと待ってろ」
和磨が窓を閉めたと思ったら、部屋の電気が消えた。
何?待ってろって、何なのよ。また嫌味でも言いに来るんだったら、応戦する心境じゃないよ。今の私は……。しかし、1分も経たないうちに和磨が目の前に現れた。
「何? もう帰りたいんだけど、私」
「何かあったのかよ?」
エッ……。
「珠美が俺の部屋を見上げてるなんて、珍しいジャン」
和磨は何でこうも、鋭い感性なんだろう?悟られている自分が情けない。和磨だったら……。もし和磨だったらどうする?
「和磨。聞いてもいい?」
「何だよ?」
タバコに火を付けながら、私をジッと和磨が見た。
「もし……。もしもよ?和磨が、彼女から子供が出来たって言われたらどうする?」
「ゲホッ。ゲホッ……」
唐突に聞いてしまったせいか、和磨は咽せてしまい、苦しそうな表情をしながらも驚いた顔で私を見ている。
「ごめん。いきなり変な事聞いて」
和磨の顔の前で、手を合わせ詫びを入れる。
「珠美。お前、まさか……」
エッ……。
「熊谷の子供か?」
和磨。もしかして……。
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