婚活
「な、何言ってるのよ。そんな訳ないじゃない。勘違いしないでよね。だいたい、どうしてそこで熊谷さんが出てくるの?」
「……」
そうだ。ちょうどいい。
「和磨。悪いけど、今度の土曜日の紅葉見に行く話。まだ裕樹には話してないんだけど、私は行かれないから。裕樹と二人じゃつまらないかもしれないけど、彼女とWデートでもしながら行ってきて」
「あぁ、そうするよ」
そうすんなり言われちゃうと、何だか……。
「それじゃ」
「珠美。待てよ」
何と言われようと、土曜日は無理だよ。
「何?何と言われようと、土曜日はどうしても無理だから」
「俺なら責任取るとか言ったり、態度で示したりとかする以前に、そういう言葉を彼女からは言わせない」
「和磨?」
もしかして、さっきの私の質問への応え?
「でも、万が一って事だってあるじゃない」
「だから、俺だったらそんな彼女の変化を見逃さねぇって言ってんの」
見逃さない?
首を傾げている私に、和磨が一歩近づいた。な、何?
「そういう事って、長年一緒に居たりとか抜きにして、自分が大事な彼女の事だったらちょっとした変化も見逃さずに見てるって。だからもし彼女が不安そうな顔してたら、男だって普通、気付くはずなんじゃねぇの?」
和磨……。
「それが長年一緒にいればいるほど、もっとわかりやすくなるってものなんだろうけどな」
「じゃぁ、何で和磨は勘違いして、熊谷さんの子供だとか……」
あっ。馬鹿だ、私。和磨の言う、長年一緒にいればというその例えは彼女の事であって、和磨と私が小さい頃から一緒にいる事とは、全然次元の違う話じゃない。
「ごめん。お腹空きすぎて、自分で何言ってるのかわからなくなってきたから、もう帰る」
和磨の顔をまともに見られずに、踵を返し走り出した。
「走ると、余計腹減るぞぉ」
後から、からかうような和磨の声が聞こえる。な、何よ。和磨の奴、人をからかって……。それでもさっきの失言が恥ずかしくて。振り返る事は出来ずに急いで自分の家に続く路地を曲がった。
「ただいま」
「おかえり」
やっぱり家に帰って電気が付いていて、返事が返ってくるのって温かくていいな。着替えに行く前に、まずはリビングに顔を見せる。
「遅かったわね。ご飯は?」
「食べる、食べる。お腹ペコペコだよ」
何となく私が食べるというと、母が嬉しそうな顔をするように感じるのは贔屓目で見ているからかな。
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