婚活
キョロキョロ見渡す私の頭を、和磨が無理矢理一定方向に向けた。

「ホラッ、あそこに居るグレーのスーツ着た人がそう」

あのリーマンが、和磨の上司?

「随分、若くない?」

「ん?32だったかな」

へぇ……。まだ若いのに、和磨の上司って凄いな。

「和磨。いったい、どんだけ営業は平均年齢若いのよ?」

「そこかよ?」

庶務なんて……平均年齢、絶対40越えてそうだよ。

「熊谷さん。ありましたよ」

熊谷?

和磨の声に、熊谷という男が振り返ると同時にこちらに向かってきた。

ちょっと……。あの男はまずいでしょ。私のストライクゾーンに、ジャストミートだよ。浅黒い肌。適度な胸板に肩幅。この肩幅の広さが、結構重要ポイントだったりする。後から見て抱きつきたくなるような、そんな広さが良いんだよなぁ。そして最重要ポイント、 アッサリ系の顔。久しぶりに見た良い男。

「珠美?」

エッ……。

「な、何?」

「俺の上司の熊谷さん。 これは、庶務の沢村珠美」

これはって、何なんだよ和磨。これって言い方は、ないだろがぁ。

「熊谷です」

うおぉぉぉ。

声もソフトタッチの低音で、ナイスだ。

こんな身近で良い男が拝めるなんて、買い物に出してくれた上司に感謝。

「沢村です。初めまして。いつも和磨が、お世話になっております」
「珠美。何、しおらしく気取ってんだよ」

「和磨?」

横目でチラッと和磨を見ながらも、視線は熊谷さんに釘付け。

「そうだ!せっかくですから熊谷さん。今夜、飲みに行きません?」

はぁ?

和磨。いきなり、何を言い出してるのよ。

「あぁ。別に構わないが、沢村さんが良かったら」

「良かったらも何も、絶対行くに……あっ」

「何だよ、珠美」

「でも駄目だ。今日は、先約があった」

「そうなんですか?」

「そうなんですよぉ……。残念です」

ホントに残念だよ。良い男を眺めながら飲めるなんて、こんな願ってもないチャンスなのに。

「どうせまた先約っていったって、ヴァンサンカン・トリオだろ?」

「ヴァンサンカン・トリオって……」

「いつもの秘書の人と、佐原さんとだろ?」

「佐原?」

熊谷さんが、朋美の名前に反応した。
何で?

「そうです。佐原さんと珠美は、同期なんですよ。だからいつも連んでて」

「佐原と、同期なんですか」

「はい」

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