婚活
「はぁ?」
思わず大きな声で、聞き返してしまった。
「申し訳ございません。私のお電話の仕方が悪かったのかもしれません」
価値観が違いすぎるって何?しきりに電話越しに謝っている、相談所の人の声が聞こえる。
「あっ、いえ……そんな事ないですよ。申し訳ないのは私の方ですから。でも、かえって良かったです。そういう方だって、前もってわかって」
これは本音だった。相手のある事で、その相手の都合もあるわけで……。確かに、未来王子より朋美を優先した。けれどその事に対して後悔はしてないし、失礼だが会った事もない人にどうこう言われたくもない。
「沢村様にそう言って頂けますと、私としてもとても……」
「本当に気にしないで下さい。またこれからもよろしくお願いします」
駅に向かって歩き出していたが、思いも寄らない電話の内容に無意識に立ち止まって話しをしていた。
あっ……。
慌てて後を振り返ると、和磨がすぐ傍にいた。聞かれた?今の会話、聞かれちゃった?
「和磨。もしかして、聞いて……た?」
恐る恐る、和磨に問い掛ける。
「珠美」
和磨がタバコに火を付けた。
「な、何?」
和磨の次の言葉が想像出来そうで、出来なくて、とても怖かった。
「お前、マジでこれから何処行こうとしてるんだよ?」
エッ……。
そんな聞かれても……。
「何処って、それは……」
「行くあて、ないんじゃねぇの?」
「……」
図星だ。でも別に悪い事してるわけじゃないんだから、いいじゃない。
「紅葉見に行くのを断るぐらいだから、大事な用事でもあるのかと思ったら……」
和磨がタバコを燻らせながら、溜息をついた。
「違うわよ!本当に大事な用事があって、友達と約束してたのよ。だけど今朝、急にその約束がなくなったから……だからこれから買い物にでも行こうと思ってたところ。いけない?」
早口で捲し立てるように言い返す。自分を正当化しようと必死だ。
「買い物?」
和磨が、タバコのフィルターを口に咥えたまま問い返した。
「そうよ。買い物ぐらい出掛けたっていいでしょ?別に和磨に迷惑掛ける訳じゃないんだし……。そういう和磨は、何で紅葉見に行かなかったのよ?」
「買い物、付き合ってやってもいいぜ?」
エッ……。
和磨は私の質問には答えず、そんな事を言い出した。
「い、いいわよ」
「いいわよって、どっちのいいわよだよ?紛らわしい言い方すんなよ」
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