婚活
「ごめん。私、そこまで気が利かない女じゃないし、邪魔したくないから。せっかく裕樹と別行動にしたのなら、ゆっくりデートでもしてきなさいよ」
「珠美。何、言ってるんだよ?」
ばかばかしい。こんなくだらない押し問答に、付き合っていられない。
「人を小馬鹿にするのも、いい加減にして!」
「……」
和磨の腕を振り解き、駅に向かって歩き出した。冗談じゃないわよ。何であの二人に哀れみを乞わなきゃいけないの?同情されるほど、すさんでもいないのに……。和磨も和磨だ。彼女とのデートに私を連れて行こうなんて、何考えているんだろう。一緒に買い物にもし行ってたとしたら、とんでもない空気になっていた事は間違いない。関わりたくない。和磨とあの子の間になんて、入りたくはない。私は私のペースを守りたい。
はぁ……。
それにしても、溜息が出ちゃうな。何で今日の約束をキャンセルしただけで、もう結構ですって事になっちゃうんだろう?あの未来王子とは、所詮、縁がなかったって事か。何かもう、独り暮らしとかして環境変えないと切羽詰まらないのかな?駅に行く途中の不動産屋のガラスに貼られた空室の賃貸情報に目をやった。でも現実は厳しい。家賃8万とか払えないよ。給料の半分、家賃で飛ぶなんて有り得ない。あと食費だなんだで、結局、貯金なんて出来ずに、日々の暮らしでいっぱい、いっぱいで、余裕なんてなくなって悲惨な生活に陥りそう。自炊するといったって、私の性格からして週末は実家に帰っていそうだし。それじゃ、何もならない。無理してそこまでしなくてもって事で、いつも踏ん切りがつかないでズルズルこのパラサイト族をエンジョイしてしまっている。電車に乗っていつも行くデパートへ続く道を歩きながら、ショウウィンドウに映る自分をチラッと見た。ヴァンサンカンかぁ……。中学・高校ぐらいの時は、30歳といったら本当に大人に感じていた。でも実際、自分がその年齢になって感じるのは、全然成長していないという事。制服から 社会人っぽい私服に着替え、化粧という仮面を被った見せ掛けだけの大人。中身は、まだまだ未熟な子供だよ。

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