婚活
「それがですねぇ……。本当は今日会う予定があったんですけど、急に私の方に用事が入ってしまって、キャンセルしたんですよ。そしたら先方から、自分とのアポよりそっちを優先するなんて、という連絡が相談所に入ったらしくて、見事に会う以前に終わりました」
「そうだったんだ。でも忍耐のない男だな。自分だけの都合を押し付けるようじゃ、話しも纏まらないのに」
「そうなんですよ。私も聞いた時は、びっくりしました」
私の感覚が否定されなくて良かった。
「それじゃ、また出直し?」
「はい。アハハッ……ちっともあれから変わってませんね」
突っ込まれる前に予防線を張っておく。
「いいんじゃない?焦ったところで、それこそ相手のある事だし」
加納さん……。
「そ、そうですよね。そんな簡単に生涯の相手が見つかったら、苦労はしないですよね」
「そうそう」
加納さんに、背中を押してもらった気がした。
「加納さん。飲みましょう」
嬉しくなって、また追加のオーダーをしてしまった。結局、17時頃から飲み出して、お店を出たのは20時だったから、3時間近く飲んでいた事になる。
「送っていくよ」
エッ……。
駅のホームで電車を待っていると、加納さんがそんな事を言い出した。
「大丈夫です。まだ時間も早いですから、気にしないで下さい」
すっかりご馳走になってしまった上、送ってもらうなんて滅相もない。
「いいから。ほら、電車来たから乗ろう」
「えっ?でも……」
結局、加納さんも同じ電車に乗ってしまい、駅から家までの道程を並んで歩いている。
「沢村さん。ずっと思っていたんだけどさ」
「何をですか?」
ずっと思っていたとか、何だか意味深な言い方だな。
「沢村さんは、本当は好きな人が居るんじゃないの?」
「えっ?な、何で急にそんな事聞くんですか?」
予想だにしなかった事を言われ、間が持たずにちょうど曲がる道に差し掛かっていたので率先して加納さんより少し先に表通りから曲がろうとした。
あっ……。
するとちょうど前から、和磨と昼間の彼女が歩いてくるのが見えた。
「どうかした?」
急に立ち止まった私に加納さんが不思議そうに話し掛け、その視線の先に目をやった。
「知り合い?」
「えぇ。まぁ……」
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