婚活
それとも、このままただ付いていくだけ?
彼女が居る和磨にとって私の存在など、単なる裕樹の姉で……。まさか、この私が和磨を好きだったなんて、加納さんに言われるまで気づかなかった。否、認めたくなかったのかもしれない。和磨の歩調は、男だけあって速い。だから自然と小走り気味になってしまいながら、和磨の背中を見ながら一定の距離を保っているが、このままだと話し掛けられずに終わりそう。加納さんは、それでもいいとも言っていた。それは私の自由な気持ちなんだからと……。
もうすぐ、和磨の家に曲がる路地に差し掛かる。この歳にもなると、チャレンジャーにはなれない。怖さが先に立ち、振られた時の痛手を知っているから守りに入っているというか、自ら脈のない相手の懐に飛び込んでいくなんて事は、無謀にすら思えてしまう。この歳でそんな勇気ないよ……無理。まして裕樹の友達だから、これから先も嫌でも会うわけだし。このままこれで終わらせよう。そうすれば、加納さんの言う婚活にも実が入るはず。
和磨が路地を曲がっていき、そのまま和磨の家の方を見る事も出来ずに通り過ぎた。モヤモヤとした気持ちと、何故か、ホッとしている自分。
変なの……私。
「変な奴」
エッ……?
心の中で呟いた言葉と同じような台詞が後から聞こえ、慌てて振り返った。
「珠美」
和磨……。
和磨がこちらに向かって近づいて来る。
な、何?
そして、目の前で和磨が立ち止まった。
「お前、何考えてんだよ?」
「えっ?何って……」
「珠美。お前、マジで最近おかしいぜ?」
「……」
最近おかしいって、何がよ?しかし、そう思っていても言い返せない。
「俺、お前がわからなくなった」
和磨。
見上げると和磨がジッと見ていた。
「そ、そぉ?私だって和磨が何考えているのか、まったくわからないわよ」
いつもこの繰り返しだ。もうやめようよ、和磨。私はもういい……。加納さん。このまま自分の思いを吹っ切って、新しい婚活を始めるのもいいですよね?和磨を見ながらそんな事を考えていた。
「俺は何も変わってない。変わったのは珠美。お前の方だろう?」
私が変わった?
そりゃ、小さい頃とはもう違う。学生の頃とも勿論違うし……。
「私が変わったのかもしれないね。ごめんね、和磨」
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