婚活
和磨に対して素直な自分がそこに居た。いつも負けん気だして、何かしら憎まれ口を叩いて言い返してばかりだったから、初めてかもしれない。こんなに素直に和磨に謝ったりするのは……。
「和磨。おやすみ」
和磨に背を向け歩き出す。悲しいような、清々しいような、変な気分だった。複雑怪奇は 心は、やっぱり捻くれてるのかな?
「馬鹿じゃねぇの?」
背中に浴びせられた和磨の声は、何故か怒っている。
「何、珠美が謝ってんだよ」
その声に立ち止まると、追い越してきて目の前に和磨が立った。
「何で謝ったりするんだよ」
「……」
「来いよ」
「えっ?ちょ、ちょっと和磨。何?」
いきなり和磨は私の手首を掴むと、自分の家の方へと続く路地を曲がり、門扉を開けると 玄関のカギを開けた。
「ちょっと和磨。離してよ、何?いったいどうしたのよ?おじさんとおばさんがビックリしちゃうわよ」
「いねぇよ」
いないって……。
「それなら尚更、まずいじゃない。彼女に悪いわよ」
そんな私の言葉など無視するかのように、和磨は私の手首を掴んだまま力を緩めようとはせず階段を上がり、自分の部屋へと私を強引に連れて行くと、やっと手を離してくれた。
電気を付けた和磨の部屋に入ると、机の上には参考書が散乱している。そうか……。来年から教員になるからその勉強でもしていたのかな?
あっ……。
でも、ここにはさっきまであの彼女も居たんだ。瞬きをする際、長めに目を瞑り神経の高ぶりを抑える。これ以上、和磨と話しをしていたらきっと醜い事を言い出してしまうかもしれない。
「和磨。帰るから」
すると、和磨がドアの方へと行きかけた私の腕を掴んだ。
「珠美。お前、今晩帰すつもりないから」
そう言いながら、和磨が乱暴にベッドの上に私を座らせた。
「和磨……」
弾むように座った私の体重の負荷が掛かり、ベッドマットのスプリングが悲鳴をあげている。
「帰すつもりないって、何考えてんのよ。和磨。そこまで常識のない男だったの?」
そんな私の言葉に怯む様子も見せず、和磨は椅子の背もたれを前にして背もたれを抱え込むように椅子に座った。
「ちゃんと説明しろよ?」
「な、何をよ?」
「はぁ……」
和磨がこれ見よがしに、大きな溜息をつく。
「珠美。お前、最近マジでおかしいぞ?結婚相談所に登録してから、特におかしくなってる」
「……」
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