婚活
私と視線を交わす事もなく、黙ったまま横を通りすぎた和磨は、駅に向かって歩き出した。その背中が物語っているものは、男らしさ……なのか?
「和美ちゃん。大丈夫?」
エッ……。
和磨の後ろ姿を見ていたので、裕樹の声で慌てて振り返ると、彼女がしゃがみ込んで泣いていた。
「私が……私がいけなかったんです。ごめんなさい、沢村さん。私が……あの人の事を誤解して、和磨に二股掛けないでなんて言ったりしたから」
居たたまれなかった。まるで立場もケースも違うのに、自分を見ているようで彼女が可哀想で、哀れで仕方がなかった
「裕樹。ごめん、行くね」
すると裕樹は黙って頷き、私を追い払う素振りを見せたので急いで掛け出した。
何で私、掛け出しているんだろう?自分でもよくわからなかったが、自然と和磨を追い掛けていた。
「和磨!ハァ、ハァ……」
男の人の歩くスピードは 外と早いから、和磨に追いつくのが結構大変だった。私の声に、一瞬、振り向いた和磨だったがそのまままた前を向いて何事もなかったように 歩き始めている。
和磨……。
あの彼女の気持ちがよくわかる。わかるからこそ、もう一度……。自分でも訳がわからない。和磨を好きだと気付いたあの時、悲しさだけがこみ上げて、すぐにその恋は、恋とは呼べないような短い恋に終わった。今でも和磨の事を、吹っ切れていないのかもしれない。それでもやっぱり彼女のあんな姿を見てしまうと、同性としてひと言言わずには居られない。自分を見ているような錯覚すら覚えた私は、和磨にもう1度、彼女と向き合って欲しいと確実に今、言おうとしている。
「和磨!待ってよ。ハァ、ハァ……」
「何だよ?」
和磨はうるさそうに、まるで私が言わんとしている事を察しているのか、立ち止まり、タバコに火を付けた。
「和磨。誰にだって間違いはあるわよ。彼女だって誤解してたって言ってたじゃない」
「……」
女の気持ちは、やっぱり女にはわかるから。
「それに、誤解を招くような事をした和磨だって悪いんじゃないの?」
すると和磨が険しい視線を私に向けた。
「あいつと俺との間の事を、何で珠美にわかるんだよ?」
「それは……」
「誤解を招くような事を俺がしたとしても、ちゃんと俺に聞けばいいわけで……。聞きもしないでただ……」
それは男のエゴだよ、和磨。
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