婚活
「女はね、聞きたくても聞ける勇気がない時だってあるの。聞きたくても聞けない。言って欲しくても言ってもらえない。だから、どんどん深みに填って誤解したりするのよ。そんな女の気持ちが和磨にはわかってない」
もう完全に彼女の事を自分に置き換えて、感情移入してしまっていた。
「私だって……私だって聞きたくても聞けない事、いっぱいあるんだから……」
聞きたくたって聞けない。和磨の本当の気持ち。
「男にはわからないのよ。女の気持ちは」
「珠美?」
一人で怒ったりして、馬鹿みたい。
「この道を戻れば、きっとまた彼女に会えるから……。ちゃんと、もう一度話しを聞いてあげて。和磨……お願いだから……。じゃぁね」
本当に裕樹の言うとおり、どうしようもないお馬鹿な姉貴だ。和磨に向かって、より戻せだなんて言っちゃって。お人好しにも程がある。でも不思議とすっきりしている。和磨に対する気持ちも、あの彼女に託した感じかな?和磨……。やっぱり私は和磨が好きだったけど、これ以上は進展しない。こうなる運命だったのかもね。
目的の化粧水の他に、何故か勢いでパックまで買ってしまった。素肌磨いて誰に見せよう。これも婚活の必要経費として、どっかから落ちないかしら?母親に頼まれた洗濯石鹸と一緒に会計を済ませ、呑気に天気も良かったので薬局の袋を振り回しながら歩いて帰る。あれ?銀杏並木に差し掛かると、そこには和磨のさっきの彼女が立っていた。彼女一人……?辺りを見渡したが、和磨の姿も裕樹の姿もなかった。どうしたのかな。銀杏の木なんか見上げちゃって……。
「あのぉ……」
すると、彼女が振り返った。
あぁ……。
彼女は泣いていたんだ。話し掛けなきゃ良かったと後悔するも、もう遅い。
「先ほどは。弟があまり役立たずで、ごめんなさいね」
何、言ってるんだろう。本題に入らなきゃ。
「和磨と……あれからもう一度、会いました?」
「……」
黙ったまま彼女は頷いたが、和磨の名前を聞いた途端、表情が強ばった。
「会いました。でも無駄でした」
エッ・・・・・・?
「無駄って……」
「和磨の事、確かに誤解してたのは私なんですけど、その誤解も何となくどうして誤解してしまったのか、わかった気がしました」
はい?
「どういう……事ですか?」
確かに誤解してたけど、何で誤解してしまったのかわかった気がするって、どういう意味?
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