婚活
ふと、加納さんの言った言葉を思い出した。唯一、私の本当の心を見破った人。調子のいい女かもしれないけど、加納さんに聞いてもらいたかった。私の今の気持ちを……。
携帯を握りしめたまま、何となく後ろめたさを感じてなかなか発信ボタンを押せない。でもやっぱり聞いて欲しい。自分のエゴとわかっていても……。こんなにも携帯の発信に対して躊躇ったのも初めてかもしれない。緊張しながらアドレス帳のカ行から加納さんのアドレスを開き発信した。
「も、もし……」
コール音が途絶えたので焦って声を発したが、耳に響いて来たのは女性の無機質な声だった。
「ただいま電話に出る事が出来ません。発信音のあとにメッセージを……」
留守電になる事なんて考えてもいなかったので、焦って何も伝言を残さずに切ってしまった。何も伝言残さなかったけどしょうがない。後でもう一回、電話してみよう。それから 気を紛らわすようにパソコン画面で未来王子を検索していたが、ふと気付けば和磨の後ろ姿を思い出されグッと堪えていたがそれも限界に来て、遅いお昼を食べ終わったあともう1度、加納さんに電話をしてみた。しかし、相変わらず聞こえてきたのは留守を示す音声……。でも今度は伝言を残した。
「もしもし、沢村です。この前はありがとうございました。また……連絡します」
途中で言葉に詰まってしまった。一瞬、電話下さいと言いそうになったが、わざわざ電話を貰うまでの急ぎの用事でもない。それでもやっぱり電話した後、加納さんからの電話を待っていた。今日は、ひょっとして仕事なのかな?でも確か土、日はお休みだって言ってたから、何処かに 出掛けているのかもしれない。あぁ!この人って、この前、私が約束の日をキャンセルしたら断ってきた人だ。結局、またエントリーしてるって事は、あれからまだまとまってないんだ。まじまじと画像の顔を見るも、以前のようなワクワクした気持ちはもうこの人には感じられない。相性もそうだけど、そういったイメージも重要なんだな。改めて出会いの難しさを感じてしまう。あっ……。忘れかけていた頃に携帯のバイブが振動し始め、着信を告げていた。
「もしもし?」
慌てて携帯画面を開いて出てしまったので、チラッとしか名前が見られなかったが、確か 加納さんの名前が……。
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