婚活
「加納です。電話もらったみたいで……ちょっと出掛けていたから。どうかした?彼に上手く想いを告げられた?」
「……」
加納さんは何でもわかっちゃうんだな。私が今、何を考えているのかも……。
「もしもし?聞こえない?」
「あっ、ごめんなさい。聞こえてます。あの……それが……」
「沢村さん。今から出て来られる?会って話し聞こうか?」
加納さん。
「ありがとうございます」
この後、どう返事をする?
出て行かれますと言う?
今日はちょっと……と言う?
「それじゃ、二時間後にこの前の居酒屋でどう?」
エッ……。
「あっ、はい。大丈夫です」
「それじゃ、あとで」
「はい。失礼します」
結局、会う事になっちゃった……。それでも内心ホッとしている私は、随分都合のいいように加納さんを利用してない?一度は自分から勝手にけじめと称し、切っておきながら、今はこうして縋るように会いに行こうとしている。支度をして一応、親に遅くなる旨を告げて家を出た。何、やってるんだろう?自分で自分がわからなくなる。そう言えば、和磨はあの子とまだ会ってるのかな?ファミレス好きなんだ、和磨。あの子に聞いて初めて知った。駅までの道、先ほど背を向けて行った和磨も、ここを通っていったんだ。あぁ、もう和磨の事を考えるのはやめなきゃ。悪いけれど、加納さんにすべてをぶちまけてすっきりしたいな……。帰りにこの道をまた通る時には、足取りも軽く新たな気持ちで歩いていたい。
表通りに差し掛かり駅の方へと曲がると、前から裕樹が歩いてくるのが見えた。
エッ……。
隣りに和磨が居る。何で……よ。あの子と会ってたんじゃないの?だんだん近づいてきて 裕樹が私の存在に気付いた。
「世の中狭いねぇ。行きも帰りも姉貴に会うとはな」
相変わらず口が減らない奴。
「何?どっか行くの?」
「えっ?」
「デートかよ?」
間髪入れずに和磨が聞いてきた。
和磨。さっき和磨は私に何て言った?
ただ「あぁ」とだけ言ったんだよね。しかも簡潔に、うるさそうに……。
「そう。じゃぁね」
即答した私に和磨が驚いた表情をしたのが見えたが、すでに歩き出していた。和磨……。けんもほろろに言われた方の気持ちなんて、貴方にはわからないでしょうね。
「堂々と言っちゃってぇ」
後から裕樹の茶化す声が聞こえている。
「どうせハッタリだろ?」
「……」
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