婚活
すると、不意に和磨と目が合ってしまい慌てて逸らした。

「明日も仕事だし、そろそろ帰りましょうか?」

朋美の酔いも廻ってきてたので、和磨がそう切り出した。

「そうだな。女性は、1000円通し」

「やったぁ」

朋美がバンザイをしながら、お財布から千円札を出しているので由佳と私もそれに習った。
私も結構飲んでいたが、朋美がやっぱりいちばん飲んでるみたいだ。大丈夫かなぁ……。朋美、1人で帰れるのか?

でも、そんな心配は無用だった。浅岡君が送っていくと言ってるので、ホッとしながら駅に向かった。

「白石は、沢村さんと同じ駅なんだろ?」

エッ……。

「はい。でも今日は由佳さん送っていくので、熊谷さん同じ方向ですから途中まで珠美お願いします。お疲れ様です」

「お疲れ」

「珠美。またね」

和磨……由佳……。あなた達、良い雰囲気?

そう言って和磨と由佳は、違う路線のホームへと向かっていき、朋美と浅岡君はタクシーで行ってしまった。

「沢村さん。行こうか」

「えっ?あぁ、はい」

聞くと熊谷さんの駅は私の降りる駅の2つ先だったが、電車の中ではあまり会話はなかったけれど、居酒屋で話した感じも第一印象どおりだった。

「それじゃ、私はここで。今日は、ご馳走様でした。おやすみなさい」

お礼を言って電車から降りてから、発車するまでその場で見送る事にした。滅多にこんな事はしないんだけど、何となく今夜は見送りたいと思えた。

電車が発車する合図とともにドアが閉まる直前、熊谷さんが電車から飛び降りた。

「ど、どうしたんですか?熊谷さん」

「何となく、沢村さんを家まで送って行きたくなったから」

「熊谷さん……」

駅から家までの道程、何を話せばいいのか思案に倦ねている。あまり踏み込んでもよくないし……。朋美が聞いてた事、もう1度聞いてみようかな。でも、しつこいか。あぁ、だけどやっぱり聞いてみたい。

「あのぉ……」

「ん?」

左手で風を防ぎながらタバコに火を付け熊谷さんがこちらに顔を向けた時、少しだけ煙たそうな目をして見せた。

「熊谷さんがさっきおっしゃってた、彼女は居ると言えば居るし、居ないと言えば居ないというのは、どういう意味なんですか?」

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