婚活
加納さんったら、何でそんな事聞くのよ?
「あぁ、失礼。言い方が悪かったな。沢村さんは和磨君にそれでも自分に振り向いて欲しいと思ってる?」
和磨に振り向いて欲しい?私は……。
「私は和磨を早く忘れたいです」
早く次の恋をして、このモヤモヤした気持ちを吹っ切りたかった。
「そうなんだ……。沢村さんには俺と同じ思いは て欲しくなかったんだけど……」
加納さん。
「和磨君の事を忘れるためだけに新しい恋を探して見つけたとしても、きっと上手くはいかないと思うよ」
そんな……。
「それじゃ、どうしたらいいんですか?恋は当分出来ないって事ですか?婚活も出来ないって事なんじゃ……」
加納さんの言った言葉に、思いっきり焦っている自分に驚いた。そこまでして、私は和磨を忘れたいのかな?
「そうじゃないよ。和磨君の事を忘れるためだけに新しい恋を探すんじゃなくて、和磨君の存在を今まで以上に受け入れて、彼の恋も見守れるよう自分も成長して新しい恋をすればいいんだ」
和磨の恋も受け入れて、見守れるよう自分も成長して恋をする。そんな事、出来るのかな?
「よく、見返してやるとか、そんな所謂不純な気持ちで新しい恋を見つけようとしたり、見つけたりする人も居るけれど、それは結局、前の恋の相手と比べる対象にしかならないんだよ。そんなの、相手に対しても悪いでしょう?」
加納さん……。
「沢村さんが新たな自分を発見出来て、和磨君の恋も受け入れられるような日が早く来るといいね。乾杯!」
加納さんは微笑みながら、テーブルの上に置いてある私のジョッキに自分のジョッキを軽くぶつけた。自分の気持ちを切り替えなきゃ。加納さんの言ってくれた言葉のお陰で、何かに気づけたような気がする。和磨の恋を妬んでいたわけじゃない。けれど、心のどこかに 引っ掛かっていたのも事実。
「加納さん。私、前向きになれそうです」
「そう。良かった」
それからはもう私の話しは終わり、世間話で盛り上がって本当に楽しいお酒だった。加納さんがまた家まで送ってくれるといい、今日は素直にお言葉に甘える事にした。
「また寒い冬が来るかと思うと、嫌だな」
「加納さん。冬は苦手ですか?」
「うん。縮こまって歩いていると、心まで寒くなりそうだしね」
加納さん……。加納さんは、本当はとても繊細な人なんじゃ?駅から歩きながら、冬にまつわり話しをしている。
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