婚活
「俺が珠美を悲しませてると解釈してる事自体、俺には貴方が理解できませんけどね。それこそ珠美と俺との間の事に、わかりもしないでごちゃごちゃ口出ししないで欲しい」
「和磨!加納さんに向かって言い過ぎよ。失礼じゃない」
「それはお互い様だろ?」
「……」
和磨の迫力に負けて、それ以上は何も言えなくなってしまった。
「俺もあんたに言いたい事が出来たよ」
「何かな?」
加納さんは穏やかな口調のまま、和磨に聞き返した。
「珠美の事を心配してる素振りを見せてるけど、あんた本当は、珠美が好きなんじゃないのか?だったら何も心配する事はねぇよ。俺と珠美は何でもないし、何もない」
和磨の言葉が胸に突き刺さった。
「あんたが珠美のその生きた心とやらを、掴んだらいいだろ?それじゃ」
エッ……。
何で?今、何で和磨は微笑んだの?まるで加納さんと私を鼻で笑うように、横を通り過ぎていった。
「沢村さん」
「は、はい。ごめんなさい、加納さん。和磨が酷い事を……」
「彼は、ずっと沢村さんの事が好きだったんだね」
和磨が私をずっと好きだった?何でそんな断定出来るの?加納さんは、いったい……。
「加納さん。ずっと前から思ってたんですが、加納さんはどうしてそんなに人の心がわかるというか……その……的確に捉えられるんですか?」
「……」
加納さん?
黙ってしまった加納さんの顔を覗き込む。ま、まさか エスパーですとか、ありがちな三流映画の台詞など言わないでよ、加納さん……。
「僕は、沢村さんにまだ話してない事があるんだ」
うわっ。
まさか……本当にエスパーとか言うんじゃ?
「僕が前に話した別れた彼女とは、僕の仕事が原因で別れたんだ」
し、仕事?
違う意味でホッとしながらも、何故に仕事が原因で別れなければならなかったのかが気になった。
「そんな……仕事が原因だなんて、加納さん……」
昔の加納さんの仕事って、何だったのだろう。
「僕はその昔、心理学者を目指して大学の研究室に残っていたんだ」
「心理学者……ですか?」
加納さんは、心理学者を目指していた。でもこの洞察力や人の深層心理を見抜くなど、とても人より長けている気がする。
「別れた彼女はさ……。そんな僕の気持ちを汲んでくれて、黙って見守っていてくれた。いつまでもうだつの上がらない僕に、彼女は黙っていつも隣りで笑っていてくれた」
「……」
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