婚活
会社でいくら残業をしたとしても、家に帰れば温かい夕飯が出来ている。
「ただいまぁ」
「お帰り。ご飯は?」
「食べてないよ。お腹ペコペコ」
「早く着替えてらっしゃい。ちゃんと、うがいしてね」
「はぁーい」
幾つになっても親は親なんだな。何気なく子供の心配をしている母親がいる。当たり前のように出来ている食事を食べていると普段忘れがちだけれど、これが自炊じゃ、こうはいかない。支度すら出来ていないわけだから、自分で着替えてから作らなければならないし……。でも、この楽な環境から抜け出せないが故に、婚期が遅れる所以でもあったりするのかも?いやいや、家のせいにしちゃいけないな。そんな有り難みのわかる歳に自分もなったって事なんだ。
一月は、何でこんなに早く終わっちゃうんだろう。ついこの前、元旦だったのに。もう二月に入って今日は建国記念日だ。お天気もいいし、久しぶりに出だしは遅れたけれど、冬物の最終クリアランスセールにでも行こうと家を出て駅に向かっていると、前か学生の二人が歩いてきて途中ですれ違った。
「あの……すいません」
「はい?」
そのうちの一人に、すれ違いざま声を掛けられた。
「ちょっと、お尋ねしたいんですけど……」
「はい。何かしら?」
「この辺に、白石さんってお宅ありませんか?」
「白石?」
あっ……。
もしかして、和磨の家の事かな?
「あぁ。白石さん家だったら、もう二本手前のあの電信柱の角を曲がったところよ。ちょっと来過ぎちゃってるわね」
「そうですか。ありがとうございました」
二人は嬉しそうにお辞儀をすると、走って行ってしまった。和磨の家に用事があるんだ。
もしかしてあの制服は、和磨が今、行ってる学校の制服なんじゃ?もうすぐ和磨の家に曲がる路地の横を通る。何気なく和磨の家の方を見た。すると和磨は車を洗車していたらしく、ホースを持ったまま先ほどの学生と話していた。
「先生。これ……あの……読んで下さい!」
エッ……。
一人の学生が、和磨に手紙らしきものを差し出した。
「お返事待ってます。し、失礼しました」
うわっ。
いきなり全速力で二人がこちらに向かって駆けてきて、その一人が避けきれずに思いっきり私とぶつかった。
「痛い……」
「す、すみません。ごめんなさい」
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