婚活
早口にそう捲し立てると、二人はそのまま走っていってしまった。突き飛ばされて呆然としながら彼女たちの行方を暫く見ながらその場に立ちすくんでいたが、ふと視線を感じて 和磨の方を見た。
「何、ボーッと突っ立ってんだよ」
久しぶりに会った和磨は、前と何も変わってはいなかった。
「あ、あぁ……そうだね。危なかったわよ」
「久しぶりだな」
和磨。
「ご、ごめん。ちょっと急いでるから」
「珠美」
久しぶりに和磨に呼ばれた名前。急いでいるのに動けない。
「な、何?」
通りに立ち止まっている私から、和磨との間には5mぐらいの距離がある。
「あのさ……」
「先生!白石先生」
な、何だ?先ほどの二人の学生がまた戻ってきた。ここで和磨と喋っていては、和磨の立場がよくないんじゃないかな?
「それじゃ……」
「珠美!」
背中で和磨の声がしていたが、聞こえないふりをした。
「先生」
またあの子達とすれ違う。
「白石先生」
「どうしたんだ?」
「あ、あの……。さっきの手紙の事、誰にも言わないで下さいね」
「手紙?」
「先生。今、渡したじゃないですか」
「あぁ、これな?」
「もう、白石先生。絶対、ちゃんと読んで下さいよ?」
「わかった、わかった」
背中越しに聞こえる和磨と学生二人との先生と生徒の会話。白石先生か……。和磨も新しい道を歩み出したんだね。
ストレス発散は買い物という人の気持ちがわかったような気がする。自分でも驚くほど あれもこれも買ってしまって、5つの紙袋を持って駅からの道を歩いていた。何でこんなに買っちゃったんだろう……。でも去年の暮れ前は、今期もののコートも何も買ってなかったし、まぁ、いいか。自分に甘い私……。でも偶にはいいわよね?今期もの……今期……婚期……。あぁ、やっぱりそこに行き着く自分が虚しい。
「ただいまぁ」
「お帰り。珠美。ちょうど今からお鍋にするから、早く着替えてらっしゃい」
「はぁーい」
やった!久しぶりの鍋だ。温まるよなぁ……。鼻歌交じりに気分良く階段を上り始めた。
「和君も、来てるわよ」
エッ……。
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