婚活
思わず、階段を上ろうとしていた足が止まる。和磨も来てる?何でよ?何でって事もないか……。裕樹に会いにいつも来てたんだから、普通に自然の流れだよね。母にはその返事はせずに自分の部屋に入り、着替えてまた階段を降りる。自然に振る舞わなきゃ、親だって怪しむだろうし、別に和磨が何をしたわけでもない。
「珠美。始めるから早く座って」
「はい、はい」
自分の席に着きながら、日頃、和磨とどんな会話をしていたか思い出す。別に会っても挨拶はしてなかったよな。だから今も、何も言う事はないか。
「姉貴。今日は、しゃぶしゃぶだから争奪戦なしな?肉は分配性にしたから」
「あっ、そう。それなら安心だわ」
「ダイエット中だったら、何なら食べてやるぜ?」
「大きなお世話です」
ひととおり、メインのお肉を食べた後に、ゆっくりよく煮えた野菜を頂く。
「あっ、いけない!」
「どうしたの?」
「締めのうどんを買って来るのを忘れちゃったわ」
「お袋。何やってんだよ。うどんがなきゃ、腹いっぱいにならないジャン」
「私、コンビニで買ってくるよ」
「そうしてくれる?それじゃ、珠美。お願いね」
「了解」
二階にコートを取りに行き、お財布だけ持って急いで玄関を出た。コンビニまで小走りで行く。あの痴漢に遭った事も、もう今は昔。だいぶ忘れていたし、今はそれよりあの部屋の居心地の悪さの方が嫌だった。コンビニで欠食児童の事を考え、うどんを5玉買い込み レジで会計をする。
「630円です」
「……クマイルド」
エッ……。
聞き覚えのある声に隣りのレジを見ると、和磨が立っていた。
「和磨……」
「ちょうど、お預かりします」
和磨がタバコを持ってこちらのレジに来ると、会計を済ませたうどんの入ったレジ袋を黙って持った。
「帰るぞ」
「……」
和磨。いつの間に……。
「珠美?」
「う、うん」
和磨が先にコンビニを出たが、何となく一緒に帰るのは気が引ける。コンビニの自動扉の手前で外に出た和磨を見ていると、和磨がまた戻ってきた。
「何?まだ何か買うのか?」
和磨……。和磨はよく平気でいられるね。やっぱりこうして和磨を目の前にしてしまうと、心がざわめくのは、まだ引きずっている証拠。でも引きずっているのは、私だけ……か。もう去年の事なんだし、和磨も私もお互い違う世界で働いているんだ。いつまでもウジウジしていても始まらない。
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