婚活
玄関で和磨とジッと見つめ合ってしまい、慌てて目を逸らせた。
「お母さん。うどん買ってきたよ」
和磨より先にあがって、急いでリビングに直行した。締めのうどんのはずが、和磨と交わしたキスと今度の土曜日の約束の事で頭がいっぱいで、それどころじゃなかった。
土曜日まで、あと三日。彼女が居るとわかっている人と、二人で会うってどうなんだろう?私が彼女の立場だったら、やっぱりいい気はしないんじゃ……。仕事帰りに由佳に偶然、会社を出たところで会ったのでそれとなく聞いてみた。
「和磨って、あの辞めた白石和磨の事?」
「うん……そう。弟の友達のね……」
和磨は裕樹の友達。この既成事実は、一生ついて回りそうだ。
「珠美の弟の友達とか、そんなのは関係ないけど……。珠美はどうなの?和磨って子に恋愛感情はあるの?」
恋愛感情?
「珠美が好きだと思うんだったら、弟の友達だろうと関係ないんじゃない?」
「彼女が居ても?」
「えっ、何?その和磨って子は、彼女居るの?」
黙って頷くと由佳は呆れた顔をした。
「二股掛けられてるって事でしょう。そんな男、やめた方がいいよ」
「由佳……」
彼女が居ると知った由佳は、一変して冷たく私に言い放った。
「彼女が居るのに友達のお姉さんに手を出そうとか……いい度胸してるよね。悪い事は言わないから珠美。きっと遊ばれるだけだから、そんな誘いはスルーして行かない方がいい」
「……」
何故だろう。由佳に和磨の事を酷く言われて、内心、穏やかではいられなかった。第三者から見たら、確かにそうなんだと思う。でも和磨は……。和磨はそんな性格じゃない気がするのは、私の思い違い?和磨に対して過大評価し過ぎ?由佳と駅で別れ、電車に乗りながらずっと和磨の事を考えていた。
「お前と……話したい事がある」
お前とって どういう意味だったんだろう?和磨の家に続く路地を通り過ぎる時、ふと和磨の部屋を見上げたが、まだ真っ暗で帰っていないようだった。そう言えば、教師って結構遅くまで学校に居るもんね。
「きっと遊ばれるだけ……」
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