婚活
「だから悪い事は言わないわ。珠美さんがここに居ると、年頃の子供が多いからまたいろいろうるさくなるの。そうすると、和磨に全部降りかかってくるのよ?」
「……」
和磨に全部降りかかるだなんて。
「気付かれないうちに、早くここから出ていって。あっ、跳べた」
エッ……。
「やったぞ、雨宮」
「先生!」
和磨の大きな声が体育館に響く。
「それじゃ」
「雨宮さぁん。やったわねぇ」
二人の元へと駆け寄っていった、彼女の後ろ姿を見ながら感じる。何だろう……この疎外感。私は……。不意に和磨が私の存在に気付いたのか、こちらを見た。
「珠……」
「雨宮さん。もう一回、跳んで見せて?」
「はい」
私の名前を呼びかけた和磨に、彼女が割って入った。きっと、事を荒立てたくなかったのだろう。学校という環境の中で……。
「先生。見てて下さいね」
「えっ?あぁ。ヨシ!もう一度、跳んでみろ」
和磨が背中を向けた途端、体育館を後にして西門から急いで外に出た。思い知らされた気がする。和磨には和磨の世界があって、私には私の世界がある。働く環境が違っても、もちろん悪い訳じゃない。教師という生徒に教える同じ目的を持った人が、彼女として傍に居ればそれはいちばんの理解者であるはず。
「珠美!」
和磨?
振り向くと、和磨が後から走ってくるのが見えた。
何で?どうして和磨が追い掛けてくるの?
「珠美。ごめんな。10時に行けなくて」
「……」
和磨。
「そんなに、むくれるなよ」
むくれてなんかいない。
「あの生徒は、どうしたの?」
「えっ?」
意表を突いた言葉に、和磨がキョトンとした顔をした。
「跳び箱が跳べるようになった、さっきの生徒よ」
「あぁ。あれから、ビュンビュン跳んでる」
「見ていてあげなくていいの?和磨が救いあげようとしたんでしょう?だったら、最後まで ちゃんと見てあげなさいよ」
「珠美……。お前」
「約束の時間に来られないんだったら、連絡ぐらい出来たでしょ?」
「ごめん……」
「私、そんな事は言わないわよ」
「……」
コロコロ変わる私の言葉に、和磨が目を見開いてジッと見ている。
「電話ぐらい出来たでしょう?メールぐらい出来たでしょう?でもしてこなかった。でもそんな自分の仕事に集中出来ないようじゃ……仕事よりプライベートを優先するような男なんて、私……魅力を感じないから」
「珠美……」
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