婚活

「連絡出来なかったのは、さっきあれを見たら納得した。あの場面で、もし和磨が私に電話やメールしてくるようだったら幻滅したと思う。それだけあの生徒が、跳び箱を跳べるように鳴って欲しくて集中してたって事でしょう？だから、全然気にしてないから。でも……」
「でも、何だよ？」
和磨から目を逸らし、その後の花壇に目をやった。
「和磨には和磨の世界があるように、私にも私の世界があって……。和磨の仕事を一番理解出来るのは、一緒に働いている彼女だと思うよ。何も考えずに、のこのこ学校内に入っちゃって、それが和磨の迷惑になるなんて考えも及ばなかったぐらいだし……。だから早く戻ってあげて。それじゃ」
「待てよ、珠美。俺の話は聞かないのかよ？」
和磨の話？
そう言えば、土曜日にお前と話したい事があると言ってた。でも……。
「和磨。今、もし和磨の話を聞いちゃったら、きっと決心が揺らいじゃうと思うから。聞かないでおく」
「決心って、何だよ？」
それは……。
「そ、そんなの私にだって、わからないわよ」
「何だよ、それ？」
無意識に口走っていた。決心って、何？
「和磨。私……和磨と居ると、苦しくなるのよ」
「……」
「今までだったら何でも言いたい放題言えたのに、今は言いたい事の半分しか言えないの」
「そうかぁ？その割には、ズケズケ言ってるぞ？」
あぁ。和磨には、ちっとも女心がわからないんだから。
「何だか変に意識しちゃって……。だから、前みたいに戻りたい」
和磨が時計を見た。
「珠美。ここで待ってろ」
待ってろって……。
「やる事やってくるから。だから待ってろ」
「和磨」
「絶対、待ってろよ」
そんな事、言われても。
「あっ、和磨。ちょっと、待っ……」
行っちゃった……。何よ、もう。本当に和磨は勝手で、自己中心的過ぎるよ。
和磨に「絶対、待ってろよ」と言われて、待ってなかったら怒られそうだし。何だか知らないけど仕方ない。待ってるとするか……。
「ねぇ、ねぇ。あそこに立ってる人、さっき体育館の外から見てた人でしょ？」
エッ……。
「あっ、そうそう。白石先生の事、ジッと見てたよね？」
「あの人、雨宮のお母さんじゃないし……」
ハッ？
お母さんって、何？
「もしかして、白石先生の彼女とか？」
「えぇっ？でも白石先生の彼女って、桑原じゃないの？」