婚活
こんな時に限って
訳がわからない。いったい、あの熊谷さんって人は何なのよ。否、敬称略で十分だ。さん付けするに、値しないかもしれない。外見から醸し出されるソフトなイメージと、独特のマイワールドに引きずり込む熊谷マジックとでもいうのか。そんな世界に、知らぬ間にどっぷり浸かっていた。ありゃ、相当若い頃モテたか、場数を踏んでいるのか女のツボを心得てる。
熊谷さんの本性は、まだ見え隠れしてる感じでハッキリとはわからないけれど、きっと私など使い捨てにされるのがオチか……。やっぱりそんな事を考えると、社内はNGだよな。ふと画面の中の、勝手に命名した未来王子たちの事を思い出した。未来王子に賭けてみるか。今は、それが得策かな。
「ただいまぁ」
未来王子をもう一度確認する意味と気持ちの揺らぎを軌道修正すべく、お風呂からあがってから画面に向き合い3人の王子をもう一度見て、動かぬ画像から想像と願望を交錯させる。この中に、未来王子はいるのかなぁ。
それにしても気になる。朋美を送っていった、浅岡君だったっけ?あの2人もあの後どうなったのか気になるし、由佳を送っていった、和磨はどうしただろう。
トントンッ。
「何だよ。何で、もう帰って来てるんだよ」
はぁ?
いきなりドアをノックする音と同時に、噂をすればじゃなく頭に思い浮かべたらいきなり和磨が現れ、慌てて画面を消す。
「だから和磨。ノックしたら、返事があるまで開けるなって言ってるでしょ?」
「そうだっけ?俺ニワトリだから、三歩歩けば忘れるから。珠美。熊谷さんは、どうしたんだよ?」
見ると、和磨が勝手にベッドに座りながらネクタイを緩めていた。
「どうしたんだよって、だから送ってもらってそのまま熊谷さんは帰って行ったわよ。そういう和磨は由佳を送っていったわりには、早いんじゃない?」
由佳の家は私の家より遠いはずだから、和磨が今ここに居ること自体おかしい。
「由佳さん、駅まででいいからって頑として譲らなくて……。結局、ホームで別れたんだよ。由佳さん、ガード堅いよなぁ」
「アッハッハ。和磨をもってしても、由佳は口説けなかったわけだ。 フフッ……。そりゃ、ご愁傷様。痛っ!何すんのよ。暴力反対」
和磨が素早く立ち上がり、ムッとした表情で思いっきり私の頭を叩くと、叩き返そうとした私をかわし、むくれてベッドの上に跳ねながらドカッと座り直した。
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