婚活
切れちゃったよ。何?携帯の画面を見ながら、訳がわからずそのままポケットに携帯をしまい歩き出すと、後から走ってくる足音が聞こえた。
「珠美」
「和磨……」
追いついてきた和磨を立ち止まって待つ。
「お前、何でどんどん場所変えるんだよ」
「だって……。何処見ても青川の制服ばっかりで、何処に居たらいいかわからなくて……。もう青川の制服恐怖症になりそうだよ、私……」
「珠美?」
さっき会ったばかりなのに和磨の顔を見た途端、何故か胸がいっぱいになって泣きそうになってしまっていた。
「だって勝手に体育館から覗いちゃったりしてたから、それで私に気付いた生徒達にコソコソ言われて……。和磨には迷惑掛けたくなかったし、でも何処かで待ってなきゃいけなかったんだけど、でももう家に帰るしかなかったから……だから……」
「馬鹿だな。何で生徒の目なんか気にしてんだよ。別に疚しい事なんて何もないだろう?」
「和磨。でも、よからぬ噂とか立てられたら困るでしょ?勝手に学校に連れてきたとか、あれこれ言われたりしたらやっぱり困るじゃない」
「あの年代は、何やったって気になるんだよ。好奇心旺盛だからな。でも教師だって自分の時間はあるわけだし、学校に居るならまだしも学校出てからは、公序良俗に反する事でない限り教師だって人間なんだから、遊びもするし飲みにも行く。恋愛だってするんだ」
和磨……。
「さてと!仕切り直しだな。行くぞ」
「行くぞって、和磨。何処行くの?」
「決めてないけど、取り敢えず駅まで戻るぞ。ほら、珠美」
エッ……。
和磨が突然、私の手を握った。な、何で急に手なんか……。恥ずかしくて和磨の顔をまともに見られない。左手が熱を帯びているのがわかる。何で?何で和磨と手なんか繋いでるの?そんな行為に、さっきから黙ったままの私に和磨は不思議と茶化しもせず黙ったまま歩いていたが、信号待ちでふと私の頭の上に左手を置いた。
「珠美。思うように話せないなら、無理に話さなくてもいいから。俺は、それでもまったく気にならないぜ?」
「和磨……」
左側に居る和磨を見上げ、目が合うと和磨が優しく微笑んだ。そんな和磨に黙って頷くと、信号が青に変わり和磨が私の手を引っ張るようにしてまた歩き出した。何だか……恋人同士みたいだな。横断歩道の白線とコンクリートのゼブラ模様を、わざと白線だけ踏みながら歩いていた。
「ちょっと!」
< 160 / 255 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop