婚活

その声に下を見ながら横断歩道を渡っていたので、顔を上げて前を見た。
あっ。
「何？和磨。ランチ食べて帰ろうって誘ったのに、用があるとか断ったと思ったら……。こんな事だったの？」
「……」
「珠美さん。私、言いましたよね？知っていて、これ見よがしに手なんか繋いじゃって。和磨。可哀想な年増女へのボランティア？お金でも貰って、恋人ごっこでもしてるの？」
慌てて繋いでいた和磨の手を振り解く。年増女って、一歳しか違わないじゃない。でも彼女が居ると知ってて手を繋いだりしていたのは、やっぱり私がいけない。
「ごめんなさい」
「珠美が謝る事じゃない」
和磨……。
何処かで怯えていたのは、青川の制服のせいじゃない。私が本当に怯えていたのは、和磨の彼女にだったんだ。彼女が居ると、わかっていて……。
「久美子。勘違いしてるようだから、ちょうどいい機会だしハッキリさせておこうぜ」
「何をよ？」
「俺は確かにお前の口添えで、青川の教師になれた。その恩義は感じておるが、負い目は感じていないぜ」
「……」
どういう意味？
「それと……。俺が何時、お前と付き合うと言った？言ったんだったら、それはお前の妄想じゃねぇのかよ？俺は昔から、ひと言もお前と付き合うとは言った覚えはないぜ。お前が俺と付き合いたいっていう電話は去年もらったけどな」
嘘……。
「和磨。だって付き合って欲しいと言ったら、和磨はそのうちなって言ってくれたじゃない。　あれってOKしてくれたって意味でしょ？」
そのうちな？
「俺は買い物だと思ってたけど？第一、そのうちな？なんて、男が本当に付き合いたかったら、もっとハッキリ別の言い方で返事するだろう？」
か、和磨？
「買い物ですって？」
凄い形相で彼女が和磨を睨んでいる。次の瞬間……。
あっ。
パシッと、叩いた方の手も痛かっただろうなと思えるような音で、彼女の掌が和磨の右頬を叩いていた。
「和磨。私を利用したのね？」
「利用？利用なんかしてねぇよ。久美子が勝手に話しを持ってきてくれただけだろう？断る理由もなかったし、俺は大学時代の誼でよく覚えててくれたと感動してたんだぜ？」
「……」