婚活
由佳の言葉が頭を過ぎる。遊ばれるの……かな?あの熊谷さんの事を調べるのに、平気で 女の子とキスをしていた和磨。彼女だと思ってた久美子という子に、あんな冷たい態度をとったりできる和磨。私も遊ばれて……捨てられるの?そうしたら、もう昔のように和磨とは話せない。裕樹に会いに来ても、一緒にご飯を食べられるほど私は人間出来ていない。
「珠美?」
「和磨。私……まだ上手く心が付いていけないの。まだ……」
「彼女嫌がってるジャン?彼氏なんか置いて、俺達といい事しようよ。ねぇ、彼女」
な、何?
「そうそう。そんなつまんないお兄ちゃんなんかと一緒に居ないで俺達と楽しもうぜ?」
嫌だ。何で絡んでくるのよ。見るからに遊び人っぽい男達が、後から近づいて来る。驚いて和磨の顔を見ると、和磨が近づいてくる数人の男達を睨んでいた。
「珠美。来い」
うわっ。
和磨に凄い力で握っていた手を引っ張られ、入り口の自動ドアが開いてそのままホテルに入ってしまった。
「ちょ、ちょっと、和磨」
「我慢しろ。あの人数じゃ、いくら俺でも勝ち目がない」
「……」
一人で外に出るのは今は怖かったので、渋々、和磨と一緒にエレベーターに乗って部屋の前に立つと、和磨は躊躇う事なく部屋のドアを開けた。
前にも和磨と一度、入った事があった。あの時は、私がお腹が痛くなっちゃって……。和磨が私を部屋に入れると、後でドアのカギを締める音がした。ドアの方を慌ててみると、和磨が横を通り過ぎたと思ったら、いきなり私の手を引っ張りベッドに座らせ、和磨も隣りに座った。
「か、和磨。何?」
「……」
「和磨?」
黙ったままの和磨の顔を、恐る恐る覗き込んだ。
「珠美。あの男とは、どうしたんだよ?」
「あの男?」
「結婚相談所で知り合ったんだか、何だか。俺にいろいろ言ってた男だよ」
「加納さん?」
加納さんが、和磨に言ってくれた事があった。
「加納さんの事、凄く好き。すごく親身になってくれる人だしね。でもそれ以上に、あのピュアな気持ちをいつまでも持ち続けられる優しい心の持ち主だから、一緒にいてとても落ち着くの」
「……」
「だけど、加納さんは……」
加納さんの心の中には、まだ昔の彼女が居るんだ。でもこの事は、たとえ和磨でも言い憚られる。
「いい人だけど、でも彼氏とか……そんな関係にはなれないの」
「ふーん。それ聞いて安心した」
安心した?
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