婚活
「俺、いくらなんでも人の女は、盗るつもりないから」
「キャッ」
和磨がいきなり私をベッドに押し倒し、両手首を押さえた。
「ちょ、ちょっと、和磨。やめて、何するのよ」
「珠美。俺、やっぱり本気だ」
「和磨……」
な、何で?何でこんな事になったのよ。
「そんな……和磨。急に言われても私……」
気持ちが付いていかない。和磨が私を好き?
「待って和磨」
近づき過ぎている和磨から顔を背けると、無理矢理和磨が両手で私の顔を自分の方に向けた。
「わかった」
すると和磨が私を勢いよくベッドから起こし、自分も隣りに座った。
「煮えきらねぇ奴……」
そう言いながら、和磨はタバコに火を付けた。
「……」
怒って呆れたような和磨の口調に、自分の意気地のなさとよくわからない自分の心に苛立ちを覚えると共に不安な気持ちで下を向くと、もういろんな思いが入り交じって涙となって表れた。和磨は、きっと呆れてるだろうな。こんな優柔不断な私で……。
「ごめんね」
和磨の顔を見ずに下を向いたまま、自然とそんな言葉が出ていた。
「何で、珠美が謝るんだよ」
和磨の口調が怖い。
「ごめんね……。あまりにも今日、いろんな事が起こり過ぎて……。あの久美子って子が 和磨の彼女だって、ずっと思ってたから……。まさか違うなんて、思ってもみなかった。和磨が本気だって言ってくれた事は、素直に嬉しいけど……」
「けど、何だよ?」
もう若くないんだ。私は、どこかの夢のような話しの漫画の主人公じゃない。和磨の事は好きなんだと思う。でも……もし、和磨と別れた時の事を考えると、そう簡単には付き合って身体を重ねるなんて事は出来ない。裕樹の友達以前に幼なじみというか近所に住んでいる以上、別れようが、何しようが、嫌でも顔を合わせる事になる。でも今からこんな事考えていたって仕方ないのに……。
「出よう」
エッ……。
「和磨?」
「このまま無理矢理珠美を抱いても、俺もきっと……後悔する」
和磨……。
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