婚活
和磨はそのまま部屋を出るとギュッと私の手を握りホテルから出て辺りを見回し、先ほどの男達が居ない事を確認すると繋いでいた手を離した。和磨の手から離れた自分の手を 何気なく見る。緊張していたせいか指先が冷たい。それから和磨は殆ど口を開かず、私も気まずい雰囲気を敢えて変えようともせずに黙ったまま電車に乗って最寄り駅で降りると、駅からまたお互い無言のまま歩いていたが、もうすぐ和磨の家に曲がる路地が見えてきて、内心ホッとしている自分がいた。だが、和磨は自分の家の路地は曲がらずそのまま私と一緒に歩いていた。
「和磨?」
「あぁ、お前の家まで行くよ」
「えっ?大丈夫だって。すぐなんだから」
「裕樹に、用事があるから」
「そ、そう」
何だ。 勘違いしちゃったじゃない。私をわざわざ送ってくれるんじゃなかったのね。
「珠美」
家の路地を曲がる直前、和磨が立ち止まった。
「ん?」
「今日の事は忘れよう」
「忘れようって……」
「多分、これから先も、俺は珠美にはきっと裕樹の友達としてしか見られないと思うから」
「和磨」
「だから俺も珠美の事は、昔と同じように裕樹の姉貴として見るようにする」
「……」
「本当に好きだったら、世間体とか、迷いや戸惑いなんてないと思うぜ」
きっと和磨は、私の態度でわかったんだ。
「珠美が悪い訳じゃない。軽い女がいいとも言ってないんだからな。タイミングが合わなかっただけ。珠美がそれほどまで躊躇するって事は、悩んでいるって事だろ?悩ませているのが俺だとわかってる以上、俺はそんな事はしたくない。それじゃ、おやすみ」
エッ……。
和磨。裕樹に用事があるんじゃ……。和磨は振り向くこともなく行ってしまった。
「本当に好きだったら、世間体とか、迷いや戸惑いなんてないと思うぜ」
私は……和磨の事が好きじゃなかったの?タイミングが合わなかっただけって、何?
「ただいま……」
「おかえり。電話するって言ってたから……。ご飯は食べてきたの?」
あぁ、そうだった。
「食べてきたから、大丈夫」
「珠美?」
「ん?」
「和君から、夕方電話があったわよ?」
「和磨……から?」
「そう。今夜は遅くなりますからって。珠美さん、お借りしますってね。和君、あぁ見えて、本当に律儀だわよね」
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