婚活
当てはなかったが、取り敢えず駅の方へと走る。走っていないと落ち着かない。でも、さっき別れてそんなにまだ時間は経っていない。だとしたら追いつけるかも?駅に向かっていると信じて表通りに出たが、遙か先まで見るも和磨の後ろ姿は見えない。何処?和磨。何処に行ったの?駅周辺を探したが和磨の姿はなく、走り過ぎて痛くなった足を庇いながらさっき来た道を歩いていたが、途中、あまりにもつま先が痛いので、少し怖かったけれど人通りのある外灯の真下で明るい公園のベンチに座った。そっとヒールを脱ぐと、つま先が真っ赤になっている。きっと走っていて、前に重心が掛かったせいだ。しかし足の痛みよりも、母が教えてくれた和磨から電話があった事にもっと胸が痛んでいた。何で私って、肝心な時に躊躇するんだろう。
「煮えきらねぇ奴……」
和磨に言われた言葉が、ズン!と胸に響く。いつもこうして悔やんでばかり。
30歳だから?
もう若くないから?
その一歩が踏み出せないのは、守りに入っているからなのかな?
傷つくのが怖いから……。
失恋した時のこの世の終わりのような、世の中すべてがセピア色に見えてしまうのが怖いから?
つい二時間ぐらい前まで、和磨と繋いでいた掌を見る。和磨とこの左手を繋ぐ事は、もうないのかも。タイミングが合わなかっただけ。本当にそうだね……和磨。私達、タイミングが合わない。痛みはまだ引かなかったが足がむくみ出すと嫌なので、無理矢理ヒールを履いた。
「年甲斐もなく、靴擦れかよ?こんなところに居たら、危ねぇだろ?」
和磨。
見ると、和磨がコートのポケットに両手を入れ呆れた様な顔をして5mぐらい先に立っていた。
「和磨。何処行ってたのよ……」
和磨の姿を見た途端、涙が溢れた。
「珠美?どうした!何があった?」
泣いているのは誰かに何かされたのかと思ったのか、血相を変えて和磨が駆け寄ってきた。首を横に振るが、ただ泣けてくるだけで……。
「泣いてちゃわからないだろ?」
和磨が隣りに座り、心配そうに私の顔を覗き込んでいる。
「和磨」
堪えきれなくなって、和磨に抱きついてしまった。
「どうした、珠美」
「和磨……。和磨……」
「何だよ」
泣いている私を和磨がギュッと抱き締めた。
「ごめんね……私……」
「だから、何でお前が謝るんだよ」
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