婚活
「だって私……。和磨が夕方、家に電話入れてくれた事、お母さんから聞いて……それで 和磨に会いに行くって言ったら、今夜は帰ってこなくていいって言われて……」
「……」
和磨が驚いた顔をしながら私の両肩を持つと、抱き締めていた身体を離した。
「だから……和磨の家に行ったんだけど、和磨居なくて……それで私……」
「馬鹿じゃねぇ?」
馬鹿って……。
「携帯に電話すればいいだろ?」
「あっ……」
すると和磨がもう一度、私を抱き締めた。
「これでお前に何かあったら俺、マジで沢村家、出入り禁止だったぞ」
「和……」
和磨が私をベンチの背もたれに押し付けると、乱暴にキスをした。
「しょっぱいな。お前の涙で、しょっぱい」
「……」
「おばさん公認とくれば、ドン!と来いだな」
「和磨?」
うわっ。
和磨が私の左手を握り引っ張ると勢いよく一緒に立ち上がり、真正面を向いていた和磨が右隣りに居る私に顔を向けた。
「今夜は……帰さねぇ」
和磨……。
和磨がギュッとまた私の左手を握って自宅まで戻ると車のエンジンを掛け、一度家に入っていったので、助手席に座って待っていた。
何だかドキドキしてる。私……本当に和磨と……。
「お待たせ」
「ううん……」
和磨が運転席に座り、車を発進させた。
「お袋が珠美に連絡しろって、うるさかったぞ」
きっと昼間も自宅に電話したし、さっきも家まで行っちゃったから……おばさん、気にしてくれたんだ。今度会ったら謝らなきゃ。
何となく気まずい雰囲気のまま車は夜の街を通り過ぎ、いつしか見覚えのある駐車場で停まった。
「和磨。ここ……」
「俺、決めてたから」
決めてたって、何を?
運転席の和磨を見ると、和磨が私の頭の後に左手を置きそのまま引き寄せた。
「このホテルにまた来たいと思ってた。あの時、本当は抱きたかったから、珠美」
和磨……。
ここは前に一度、お腹が痛くて入った事のあったラブホテル。和磨が私にキスをした。
「降りよう」
和磨がエンジンを切り車のキーを抜くと、運転席から降りていった。この後の及んで迷いはないはずなのに、助手席のシートから離れられずに俯いたままジッとしていると、助手席のドアを和磨が開けて、何も言わずに私の左腕を掴んだので座ったまま和磨を見上げた。
「珠美?」
「う、うん」
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