婚活
「うるさいよ。画面の中でしか男を探せない珠美にだけは、言われたくないね」
「それを言うな、それを。こっちは真剣なんだから。それに……」
クルッと椅子を回転させて、和磨を見る。
「どんな出会いだとしても、幸せになれれば私はそれでいいと思ってるし、確かにその過程も大切かもしれないけど、人それぞれなんだから。私に最適の人が現れてくれれば、それが画面の中からの出会いでも構わないよ、私は」
「ふ~ん……。まぁ、珠美が納得してるんだったら別にいいけど。だけど俺からしたら、 やっぱり不自然な出会いだよな。見合いとはまた違った感覚だし、中には冷やかしだけの男とかもいるだろうしさ。せいぜい騙されない事だな」
騙されるなんて。
「ちゃんと、身分がハッキリしてるんだから。そんな騙されるとかなんて、絶対ないってば」
そりゃ、和磨みたいにモテればそんな場所には縁遠いだろうけど、私にとってはやっぱり死活問題だよ。
「せっかく人がセッティングしてやったのに、これかよ」
エッ……。
「帰るわ」
「そう。襲わないようにね」
「はぁ?生憎、欲求不満とはほど遠い俺だから、珠美とは違うよ」
「失礼ね。早く出ていけ、このエロ男」
まったく和磨ときたら、口が減らないんだから。でも、さすが由佳だ。あの和磨を駅で突き返すとは、あっぱれ由佳。何だかんだ言っても、やっぱり今の彼氏がいちばんなんだね。あとは、朋美がどうなった事やら。明日、聞いてみようっと。
しかし、そんな私の淡い期待は、あっさり翌朝の通勤時間に夢やぶれた。朋美からのメールで、思いっきり浅岡君のボロクソ悪口メールが来たからだ。
― あの浅岡ってヤツ、まったくKYな男だよ。タクシー割り勘って有り得ない!まだ白石の方がマシ。珠美は熊谷さん、どうだった? ―
プッ……。
和磨の方がマシって、それってよっぽどだ。
― そりゃ、大変だったねぇ。熊谷さん?朋美の上司だけあって、手が早そうだ。―
そんな返信をして、今日も乳父捨て山のような庶務へと向かう。あぁ……。現実は、厳しいわ。事務所内を見渡して、出るのは溜息ばかり。平々凡々な 毎日がいちばん幸せなんだろうけど、そんな私の横か傍にやっぱり誰かが居て欲しいよなぁ。
ランチタイムに1人で食べていると、噂の朋美がやってきた。
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