婚活
とても後ろ髪引かれる思いで家を出た。和磨は何でさっき、返事もしてくれなかったんだろう?でも何故、私が加納さんと会うのが嫌だったら、嫌だと言ってくれないの?駅までの道程、だんだん変な怒りにも似た感情がふつふつと沸き上がってきて、徐々に足取りも 知らず知らずのうちに、踏みしめるように力強くなってしまっていた。
待ち合わせの居酒屋に入る直前、大きく深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。加納さんに 当たり散らしてしまったりしたら、とんでもない事になってしまうもの。お店に入ると、加納さんはこの前と同じ席に座っていた。
「こんばんは。すみません。お待たせしちゃって……」
「あぁ、全然。僕もほら、まだ来たばかりだったから」
加納さんはグラスを指差し、見るとまだ殆ど口を付けていないようだった。
「久しぶりだね。どうしたの?沢村さん。何か複雑な表情してるけど」
加納さん……。
「そ、そうですか?」
「あの彼の事は、もうすっきりしたの?」
そうだった。加納さんには新しい道を歩き出すみたいな感じで、和磨の事は諦めるような事を話してたんだった。
「それが……あの……和磨とあれからいろいろあって……。それで付き合う事になったというか……」
「そうだったんだ。良かった……とは、どうも言えなそうな雰囲気だね」
加納さんの鋭い観察力に、黙って頷くしかない。
「何があったの?話してごらん」
話していいものなんだろうか?加納さんは男だし、男女間の事でも何となくタブーのような内容だし……。
「沢村さん?」
「私……和磨と価値観というか、上手く咬み合わないんです。本当に付き合っているのかどうかも、何だかよくわからなくて……」
素直な和磨に対する想いだった。本当に付き合っているのかも、よくわからない。ただ身体を重ねるだけの付き合いのような気も、最近はしていたから……。
「沢村さんは、本当にあの彼の事が好き?」
「えっ?」
和磨の事を私が好きかって、加納さん。何でそんな事、聞くんだろう?
「誘っておいて、こんな事を言うのは申し訳ないんだけど、彼と付き合ってるんだったら 何故、今日、ここに来たの?」
「それは……」
和磨の事を相談したかったから。
「ちゃんと、正直に話してごらん」
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