婚活

「加納さん。私……和磨の気持ちが……男の人の気持ちがよくわからなくて……加納さんに相談したくて、それで加納さんに会うからって、一応、和磨にも断って来たんです」
「……」
加納さんは黙って私の話しを聞いていたが、頼んだ私のお酒が運ばれてくると、そのグラスを取り上げた。
「帰りなさい」
エッ……。
「男の気持ちも千差万別。彼の気持ちは、彼にしかわからない。沢村さんが不安ならば、彼にその気持ちをぶつければいい。沢村さんは、今ここに居るべきではないよ。仮にも僕も男で、二人だけで会うと彼がたとえ知ってたとしても、やはりいい気はしないと思う」
「加納さん……」
「行きなさい。そして彼にちゃんと今の気持ちをぶつけなきゃ、何も解決にはならないよ」
加納さんは私のグラスのお酒に少しだけ口を付けると、立ち上がって私と一緒に会計へと向かい。そのままお店を出た。
「送っていこう。夜道は危ないから」
外はすっかり暗くなっていて、加納さんは空を見上げるとそう言った。
駅からの帰り道、殆ど話す事もなく黙ったまま歩いていたが、家の角を曲がると加納さんが立ち止まり、私の両肩を持ち自分の方に向けた。
「いい？沢村さん。万が一、どうしても彼とはもう無理だと思う時が訪れたら……そうしたら連絡して。その時は、とことん聞くから」
「加納……さん」
「泣かないの」
自然と込みあげるものがあって、涙が零れていた。加納さんを頼ろうとした安易な自分の考え。和磨の気持ちなんて、和磨にしかわからないのに……。都合のいいように加納さんを使おうとしていた私。でも加納さんと以前のように会えないと思うと、とてもそれは不安で、すごく寂しい。加納さんがハンカチを差し出してくれた。
「すみません……」
加納さんからハンカチを借りて、涙を拭いた。
「人の女。何、泣かしてんだよ」
驚いた加納さんの顔を見ながら、後を振り返る。
「裕樹」
後に居るはずの加納さんが、いつの間にか隣りに来ていた。
「家の姉貴にあんた、何してるんだよ？」
「裕樹。失礼な事、言わないでよ」
「沢村さんの弟さん？」
黙って頷きながら加納さんを見た。
「あんたさぁ。姉貴を……人の彼女泣かせて、何やってんの？」
「裕樹。違うのよ。加納さんは、和磨の事知らなかったんだから」
「知らなかった？」