婚活
「沢村さん。いいんだ、僕が悪い。弟さんの言うとおりだよ。知らないとはいえ、軽率な行動だったと思う。申し訳なかった」
「加納さん……」
「それじゃ、おやすみ」
加納さんは、そのまま振り返る事もなく駅に向かってまた戻っていった。その後ろ姿を見ながら、たとえようのない寂しさと悲しさを感じているのは何故だろう?
「姉貴」
「裕樹。あんた何で加納さんにあんな酷い事……」
裕樹の声で我に返り、文句を言った。
「和磨が大変だぞ」
「えっ?和磨がどうかしたの?」
「ほら」
裕樹が掲げて見せたのは、お酒だった。そう言えば、心なしか裕樹もお酒の匂いがする。
「飲んでたの?」
「和磨が飲もうって言いだして飲み始めたはいいけど、暴れてどうしようもないから酒買ってきた。潰しに掛かっていいか?」
「裕樹……」
確かに裕樹は和磨よりも数段お酒が強い。
「もう少し、和磨の気持ちも考えてやれよ」
「……」
裕樹はそう言うと、そのまま先に家に入っていってしまった。和磨……。まだ居るんだ
「ただいま」
「おかえり。ご飯は?」
ご飯か……。何だか食べたくないな。
「うーん。あまりお腹空いてないからいいや」
リビングには顔を出さず、取り敢えず着替えてこようと思って階段を上って部屋へと向かう。ドアを開けて暗い部屋の電気を付けようとした途端、部屋の中でベッドが軋む音がした。
誰?
「電気、点けるなよ」
「和磨?」
人の気配を感じ、後を振り返るとドアが閉まる音がした。
な、何?
和磨がドアを閉めて、真っ暗になった部屋で私を抱き締め、そのままベッドに一緒に座った。
和磨……。
「和磨。飲み過ぎじゃない?お酒臭いよ」
「……」
和磨は黙ったまま、何も言わずに私を抱き締めている。
「和磨?」
「珠美……。俺、やっぱ無理だわ」
「何が無理なの?」
「……」
「和磨。どうしたの?」
暗闇の中で和磨の表情も見えず、何を言ってるのかもわからない。
「酔っぱらったな……俺」
和磨?
どうしたんだろう
「和磨。ちゃんと説明して。何が無理なの?」
「酔っぱらいの言う事なんか、真に受けるなよ」
和磨はベッドから立ち上がると、よろけながらドアにバン!と手を付き、部屋を出ていってしまった。
和磨……どうしちゃったの?
とにかく急いで着替えてリビングに降りていくと、笑いながら飲んでいる和磨の姿が目に飛び込んできた。
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