婚活
「珠美。肉じゃがだけでも食べる?」
「あっ、うん。食べようかな」
あまり食べたくはなかったが、ここに居るには何も食べないと手持ちぶさたで間が持たない。
「飲むか?」
和磨が、テーブルの中央に置いてあったグラスを差し出した。
「今日は、いいや。ありがとう」
今飲んだら、悪酔いしそうだもん。すると和磨は自分でウォッカをグラスに注いでグレープフルーツを搾ると、ひと口飲んで 絞ったグレープフルーツを私の手にのせた。
「何?」
「やる」
はぁ?
グレープフルーツのいい香りがしていたが、もらったところでどうにもならない。和磨。さっき言ってた事は何だったの?
そのうち両親は寝てしまい、悶々とした思いを出さないよう、裕樹と和磨の飲みに付き合っていると、裕樹が和磨を潰しに掛かっているのが何となくわかったが、珍しくその和磨が潰れない。
「和磨。もうやめろ。明日、地獄をみるぜ?」
こういう時、加勢してはいけないので、黙ったまま裕樹と和磨の会話を聞いている。
「和磨。酒、強くなったな」
「そうか?まだお前には敵わないだろ?でももう遅いから、俺、帰るわ」
和磨の会話は、しっかりしているように見える。
「姉貴。送っていけよ」
「えっ?」
「いいよ。女じゃあるまいし」
和磨が立ち上がって玄関へと向かったので、和磨の後を追おうとしたところを裕樹が私の腕を掴み、耳元に顔を近づけた。
「姉貴。今夜、帰ってこなくていいから」
「な、何、言ってるのよ」
小声で応戦するも、裕樹に背中を押された。
「いいから。絶対、帰ってくるなよな」
「ちょっ、ちょっと、裕樹。何してんのよ。開けなさいよ」
玄関から先に出ていった和磨の後から、自分の家なのに裕樹に追い出されるようにして私まで出されてしまい、鍵を掛けられてしまった。そんな私の様子を呆れ顔で和磨が見ている。
「珠美。何、やってんだ?家、追い出されたのかよ?」
「だって裕樹が……」
「家に泊まるか?親父もお袋も山に行ってるから居ないし」
「い、いいよ。後で電話して、あっ……」
ポケットを探ったが、携帯を持ってきていなかった。部屋に置きっぱなしだ。
「和磨。携帯貸してくれる?」
「……」
「和磨。ちょっと貸してよ」
和磨のポケットから携帯を出そうとしたが、それを拒むようにして和磨が身体の向きを変えた。
「嫌だね」
そう言うと、いきなり和磨が走り出した
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