婚活
今日は遅くなっちゃったよ。いきなり部長が退社間際に、一表作れなんて言い出すから……。みんなそれなりに仕事のペース配分してるんだから、もっと早めに言って欲しいよ。遅くなってお腹も空いてるせいか、イライラしながら会社を出て電車に乗っていた。駅について改札口を出ると、今降りてきた乗客が一斉に南口と北口の二つの出口に分散していく。比較的人の少ない北口から出て歩き出すと、遅くなったからだんだん駅から遠ざかるにつれ、人通りも少なくなってきていたが、10mぐらい先を歩いているスーツ姿の男性の後ろ姿が見えた。あの特徴のある鞄の持ち方といい、タバコの吸い方は……和磨。後ろ姿を見ただけなのに、緊張してしまっている。何、意識してるんだろう?でも和磨に後に私が居る事は、何となく悟られたくない。気配を消しつつ、少しゆっくり歩きながら和磨との距離を少し広げた。さっきの電車に乗ってたのかな?男の人の歩調は速い。恐らく 同じ電車だったんだと思う。もうすぐ和磨の家の路地に差し掛かる。このまま……このまま気付かずに曲がって欲しい。和磨の気持ちはわからないけれど、もし……。
「もし会いに行って白石が拒んだりしたら、それって多分、価値観の違いだから」
朋美の言ってた言葉が引っ掛かっていた。もし声を掛けて和磨に嫌だという気持ちを表情に出されたら、私は……。和磨が路地を曲がろうとしていた。もう少し和磨の後ろ姿を見ていたいと思う気持ちと、気付かずに早く家に入ってもらいたいという複雑な思いが交錯している。和磨が路地を曲がる瞬間、こちらを見た。
あっ……。
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