婚活

「あぁ、読んだよ。あのな……教師と生徒というのは、そこら辺に転がってる陳腐な漫画とかのストーリーみたいな関係にはなれないんだよ。なれないんじゃないな、ならないんだ」
和磨……。
「どうしてですか？人を好きになるのに、先生も生徒も関係ないと思います」
うわっ。
ある意味、大胆な事言ってるな。無意識にジッと生徒を見てしまっていたが、すがりつこうとしている生徒を和磨が近づかせないよう、腕を胸の前で組んで隙を見せていないのが私にもわかった。
「教える立場の人間が、生徒に恋はできないんだ」
「……」
「などと、優等生ぶった事は言わねぇよ」
和磨？
和磨の語気を少し荒げた声に、ドキドキしてしまう。きっと、あの生徒も泣きそうなんじゃ……。
「俺は教えるために教師になった。その教師をクビになるような行為を誰が好き好んでするんだよ。禁断の恋だか何だか知らねぇけど、聞こえはいいが、結局、身を滅ぼすだけの非現実的な教師との恋とか、夢見る感覚はもう捨てろ」
「先生……」
「世の中にはそれでもそんな教師も、ほんの僅か、ひと握りだが中には居るのかもしれない。だが、実際そうなったら綺麗事じゃ済まされないんだ。だいたいは教師の地位を追われ、塾の講師にでもなれれば良い方だ。好きなだけじゃ、食って行かれないんだぞ」
和磨。
ちょっと高校生には、言い過ぎなんじゃ……。
「……」
「そんな事より、もっと勉強しろ。お前ならワンランク上の大学だって狙えると思うから」
「私の事は、恋愛対象として見てもらえないって事ですか？」
その怖いもの知らずの度胸が、今の私にも欲しい。
「最初から教師と生徒だろう？他になりようがない」
「先生……。一つだけ教えて下さい。この人が先生の彼女なんですか？」
エッ……。
生徒の指さした先には……私……？
「あぁ、そうだ。俺の大切な人だ」　
和磨。何、言ってるのよ。久美子って子が言ってた。多感な生徒が居るから、気を付けないといけないって。そんな堂々と言っちゃったら、和磨の立場が……。
「ち、違う！違うわよ。私……先生の彼女じゃないから。近くに住んでるだけ。先生は私の弟の友達なの」
「珠美……」
信じてもらえないかもしれないけれど、公然と認めた和磨の言動を訝ってしまう。軽率過ぎるよ、和磨。
「もう遅い。お前の家、何処だ？」
「隣りの駅です」
「わかった。車で送るから」