婚活
「和磨。ごめんね……やっぱり私、和磨とは昔のままの友達でいたい」
万が一、こんなところを誰かに見つかって学校で暴露されたりしたら……。
「その方が私も私らしく居られるし、和磨だって私らしくないってさっき言ってたでしょ?」
「……」
和磨。ごめんね……。
「私には……私には、和磨を支えてあげられる度量がないと思うの。私と一緒に居ると、和磨をかえってイライラさせてストレス溜めさせちゃうだけみたい……。ごめんね。だから……」
「だから別れようって言うのかよ?」
「……」
「珠美。お前、いったい何を気にしてるんだよ。誰のために、今まで俺と付き合ってたんだ?自分のためじゃなくて、世間体気にして、人の目も気にして……。俺がいいって言ってるんだからそれでいいんだって」
私が世間体を気にしてるの?
人目も気にしてるの?
そんな事、ないのに……。
「そんな事ない。私は和磨の事、ちゃんと見てるつもりだった。だから、少しでも和磨のイメージが学校でマイナスになるのは嫌だったから……。でも和磨には、そんな風に見えていたんだね」
「珠美……」
「和磨。私よりもっともっと和磨の事、ちゃんと何でも理解してくれる人……探してね。私は……もう……ここで降りるから」
和磨の身体を押してシートを元に戻したが、もっと抵抗されるかと思った上に覆いかぶさっていた和磨はあっさりどいてくれて、すぐに車から降りる事が出来た。まるですべてを認めてくれた、和磨の意思ともとれるように……。
車から降りて街路樹の下を歩く。ここが何処だか、さっぱりわからない。
「彼女、乗ってかない?」
エッ……。
一台の車の助手席の窓が開き、柄の悪そうな男が顔を出した。
「家まで送ってくよ」
冗談じゃないわよ。学生じゃあるまいし、暗いから30歳には見えないのか?無視して足早に歩き出すと、後で車のドアが開く音が聞こえた。嫌だな……。余計な事には巻き込まれたくない。急いで走り出すと、後から呼び止める声が聞こえてくる。頼むから構わないでよ。走っていると、少し先に見覚えのある車が停まった。
「珠美。乗れ」
助手席の窓が開き、運転席の方から和磨の声が聞こえた。でも……。ここで和磨の車に乗ったら元も子もない。しかし、後からさっきの男が追い掛けてきている姿が見える。
「珠美!」
和磨の呼ぶ声で慌てて助手席のドアを開け、また和磨の車に乗ってしまった。
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