婚活
「私の行動が、和磨を不安にさせたらいけないと思って……それで……」
「それじゃ、何で俺が求めてるのに珠美は拒むんだよ」
「それは……」
重苦しい空気の中、和磨が缶コーヒーをドリンクホルダーに置くと、車を発進させてあっという間に私の家の表通りに着いてしまった。
「明日も仕事なのに、振り回して悪かった」
「ううん。ありがとう……。おやすみ」
ありがとうという言葉が浮かばなかった。
「珠美」
「えっ?」
車から降りた私に、和磨が 手席の窓を開けて運転席から顔を覗かせた。
「なるべく……俺も昔と同じように接するから。大丈夫だから心配するなよ。今度の週末も裕樹のところに顔出すし」
「和磨」
「今までのように楽しくやろうぜ。三人でさ」
そう言って親指を立てた和磨が、優しく微笑んだ。
「おやすみ」
和磨は何も言えない私をジッと見ていたが、そのまま車を走らせ和磨の家の路地を曲がって行った。
和磨。どうしてこんな結末を迎えてしまったの?結末って……。もしかして和磨と私は別れたの?別れてしまったの?
その夜の出来事は思いの外、ダメージが大き過ぎて何とか週末までは頑張ったが、金曜の夜にはダウン寸前で家に帰ってきた感じだった。
「珠美。いつまで寝てるの?いい加減、起きなさい」
「うーん……お母さん。今日は寝かせてぇ。頭痛くてどうしようもないんだ」
「えぇっ?珠美。もしかして鬼の霍乱かしら?」
母親が額に手を当てた。鬼の霍乱って何よ……。でも反論する気分でもなかったので、黙ったまま母親の偉大さなのか、触れられた額に安心しきって従っていたが……。しかし、バシッと容赦ない母親の叩きが入った。
「熱なんかないわよ。そんなだらしない生活送ってたら罰が当たるわよ?早く起きなさい」
「はぁーい……」
お母さん。もう罰が当たってるよ。怠惰な生活を送りすぎたのかな?心の中で呟きながら 剥がされた布団を整え、ベッドからようやく起きあがった。それにしても、この頭痛は何だろう。寝不足だからかなぁ……。ここのところ眠りが浅く、眠れたと思うと夢に魘されていたりもする。それもいつも決まった夢……。和磨の後ろ姿を追い掛けていて、呼んでも、叫んでも和磨には聞こえないのか振り向いてはもらえない。
「リアル過ぎるよ……」
愚痴のように、着替えながら無意識に呟いていると、下でインターホンが鳴っていた。
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