婚活
和磨との事が思いの外、ダメージが大きいのか、なかなか踏ん切りがつかない。
「珠美。人生一度っきりなんだから、後悔はしたくないジャン。将来のためにもやっぱり努力も必要だよ」
「そうだね……」
相槌を打つ事だけは出来る。でも暫く誰とも付き合いたいとも思えない。
「珠美。男を忘れるためには、やっぱり男だよ」
朋美……。
二人が心配してくれているのがよくわかって、本当に嬉しかった。
「そうだよね。わかった。もう一度、相談所で紹介してもらう」
「そう来なくっちゃ」
朋美と由佳に絆された感じだったが、自分のためにもやはり今のままではいけないとも思え、相談所の扉をもう一度叩く事にして、ネットの検索プロフィールも改めて書き直すと、こんな時に限ってすぐにリクエスト・エントリーが入り、翌週、週末ではなく会社の帰りに急遽、相手の男の人に会う事になってしまった。家電メーカー勤務の男性で、都内在住の35歳。でも……長男だった。
待ち合わせは渋谷だったが駅の人がいっぱい集まる場所ではなく、少し外れた銀行の前で、パソコン画面でお互いの顔はわかってはいたが、実際とはやっぱり少し異なったりもするので相手の男性に目印になるよう、雑誌を持っていてもらう事にしていた。待ち合わせの銀行の前に行くと、相手の男性に該当しそうな人はまだ来ていなかった。まだ来てないのか……。道行く人を見ながら待っていると、目の前に雑誌を持った一人の男性が立った。
「沢村さん……ですか?」
「あっ、はい。伊藤さんですか?」
「はい。初めまして、伊藤です」
「初めまして、沢村です」
「お茶でも飲みに行きましょうか?」
「あっ、はい。そうですね」
この男、待たせた事への詫びはないんだ。まぁ待ち合わせの時間にはまだ2分ぐらいあったから、正確には遅れたとは言わないけど……。近場の目についたカフェに入って窓際の席に座り、夏特有の陽の長さの中にも夕暮れが迫り、夜の帳が開く前に足早に家路を急ぐ 人が行き交っている光景を見ながら、今、目の前に居る男性と大袈裟だがもしかしたら縁合いになるかもしれない会話を交わそうとしている。
「何、飲みます」
「じゃあ、コーヒーで」
「コーヒー、2つ」
店員にオーダーをすると、男性がいきなり封筒を取りだしてテーブルの上に縦長に四つ折りになった紙を広げた。
な、何?
< 212 / 255 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop