婚活
うわっ。一気に拒絶反応の一種である、背筋がゾクッとしてきた。きっかけが出来てしまうと言う事がいちいち勘に障ってくる。自分はとかイケメン俳優が言うんだったら凄く格好いいけれど、全く似合っていないから連呼するように自分、自分って言わないでよ。あぁ、もう早く帰りたい。
「それじゃ、もう出ましょうか」
「はい」
やっと待っていたフレーズを言ってくれた。話しの内容なんて何もなかった。自分の自慢話と結婚したらという、たらればの話しを嫌というほど聞かされたが、どうでも良かったので適当に返事をしながらこの時を待っていた。伝票を持って会計へと向かう。亭主関白ねぇ……。男の後ろ姿を見ながら、溜息が出てしまう。
「沢村さん。560円、お願いします」
はぁ?
あんたさぁ、言ってる事とやってる事が違うんじゃない?私の知ってる九州男児は、本当に男らしくて女に金など払わせないぜ!みたいな、そんな雰囲気を醸しだしている。勿論、その九州男児にいつも奢って貰おうとも思わないけれど。560円……。されど560円なのか?考えようによっては、こんな男に奢って貰う事自体、女が廃るわよね。
「はい」
小銭入れから、ちょうど560円を出して男に渡した。言動と行動が伴わないなら、偉そうな事言うなよ。カフェを出て、その場で別れようと挨拶を切り出した。
「今日は、ありがとうございました」
こういう人物には仁義を切っておかないと、後で何を言われるかわからない。でも言われてもいいか、この男なら。
「こちらこそ。では、相談所の方に連絡入れておきますので」
はい?
「連絡ですか?」
「はい。それでは」
男はそのままクルッと向きを変えると、歩き出して行ってしまった。
何なの?あの男、意味不明だよ。ある意味、不完全燃焼な感じで家路についた駅からの帰り道、ポケットの中で携帯が震えていた。取り出して画面を見ると、相談所からだった。
「もしもし」
「沢村様でいらっしゃいますか?こちらは相談所の有田と申しますが、お世話になっております」
「いえ、こちらこそ」
「今、お電話していて大丈夫でしょうか?」
「はい」
何だろう?
「先ほど、伊藤様よりご連絡がございまして」
早い。もう相談所に連絡してたんだ。
「本日、沢村様とお会いしてみて楽しかったそうなのですが、大変申し訳ないのですが……お断りのご連絡が入りまして……」
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