婚活
「別に珠美。熊谷さんと二人だけで、飲みに行ってもいんじゃねぇの?」
エッ……。
「な、何で私が熊谷さんと二人だけで、飲みに行かなきゃいけないのよ?」
「珠美は、わかりやすいから」
はぁ?
和磨はそう言いながら、もう一度ベッドから起きあがった。
「画面の中の男より、ずっと熊谷さんの方がマシだと思うぜ?」
いつの間にか、ベッドの枕元にあった先日私がプリントアウトした未来王子達が和磨の手に握られていて、パラパラと捲られていた。
あっ……。
「ちょ、ちょっと和磨。人の勝手に見たわね。返しなさいよ」
「こんなのが、珠美の好みなんだ。でも所詮、無理のある出会いだよな。ここまでして、焦る必要ないんじゃねぇの?」
さっきから我慢していたが、とうとう怒りが爆発した。いくら和磨でも、許せない。
「モテるあんたに、何がわかるのよ。和磨、親しき仲にも礼儀あり。言って良い事と悪い事があるでしょ。しかも勝手に人の部屋に入って、他人のプライバシーを覗き見るなんてせこい事するんじゃないわよ。出ていって。二度と、黙って私の部屋に入って来ないで」
「……」
私の凄い剣幕に一瞬驚いた顔をした和磨だったが、持っていた未来王子のリストをベッドの上に放り出すと、黙って私の横を通り過ぎ部屋を出ていった。
和磨なんて、最低……。
見られたくなかった、未来王子。どれだけ私が真剣に悩んで選んだのかすら、和磨にはわかっちゃいない。おちょくられて、私の好みを貶されて……。和磨のようにモテる男には、きっと女心の神髄はわからないだろうな。和磨の選ぶ女は、いつも綺麗だから。その女には私なんかの悩みなど論外で、まして結婚相談所など鼻で笑われそう。
人は人、自分は自分。私は、私の道を行く。どんな出会いのあり方であっても、いいじゃない。私自身が出会いのひとつとして、十分納得してるんだから……。
ベッドの上に転々とばらまかれた3枚のリストを拾い、悔しさと虚しさの気持ちが交錯していた。でもそんな気持ちもひと晩寝れば打たれ強い私はスッキリしてしまい、日曜日の今日も画面に向かっていた。
朋美の面通しから学習した事。画面の画像と実際の画像に殆どズレはなく、その顔から想像する声だけが違ったと朋美は言っていた。
「でも所詮、無理のある出会いだよな。ここまでして、焦る必要ないんじゃねぇの?」
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