婚活
まるで逃げるように、急いで玄関を飛び出した。何も逃げる事なんてないのに、私一人で 意識して……。気を取り直して約束の場所へと向かったが、まだ少し早かったので近くのビルに入って化粧室で身だしなみを整える。何だか初めてのデートの時のような気分だな。でも初めて彼氏が出来た時と違うのは……。心の片隅に気に掛かっている事が沢山ある事。そしてその取っ掛かりが何なのかも、自分ではわかっていたりもする。だけど世の中には、どうする事も出来ない事があるのも知っている。だから、こうして自分を振るい立たせているんだ。待ち合わせの場所に向かうと、昨日の夜中に画面で見た通りの男が立っていた。
「失礼ですが、下田さんでいらっしゃいますか?」
「はい。あなたが沢村さん……ですか?」
「はい。初めまして、沢村珠美です」
「下田雅美です。初めまして」
第一印象は、悪くないかも。相手はどうなのかな?次の行動で、だいたいの事がわかってしまう。金曜日の朋美と由佳との会話から、行く場所によって相手の自分に対する見方がわかるという事。
「何処か、行きたいところとかありますか?」
エッ……。
予想外の質問に戸惑ってしまった。
「急に聞かれても困りますよね。それじゃ、何処に行っても混んでますし、そこにでも入りましょうか?」
「あっ、はい」
何でハンバーガー屋なの?由佳の言葉を思い出した。
「私なんてテイクアウト・カフェだったわよ」
何?この男は私の事を会ってまだ2分も経たないうちから、すでにもう値踏みしたわけ?何だかもう、一気にテンションが下がった気がする。
「何処でコーヒー飲んでも、目的が同じだったら一緒でしょ?」
「目的が同じって?」
結婚相手を探しているって事?
「貴女も相談所に登録してるのは、表向きでしょう?」
「はい?表向きって、何の事ですか?」
話が全く見えない。
「あれっ?違ったんだ。てっきり沢村さんも感じからしてそっち系OKの人かと思ってたから、俺、かなり溜まってたし無理お願いしてエントリーしたら、やっぱり案の定、今日来てくれたからてっきり……」
いったい、何の話?この男、日本語通じないの?そっち系OKって、まさか……。
「違ったんだ。何だ、期待して損したなぁ。ホテル代持つから、どう?」
「失礼します」
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