婚活
割り勘で買ったばかりのコーヒーの入ったカップを、躊躇うことなくゴミ箱に入れて店を出た。有り得ない……。相談所をはき違えた捉え方してるよ。そんな人がごく稀に居ると噂には聞いた事があったけど、まさか自分が遭遇するとは思ってもみなかった。言い切って出てきたものの、何だか後を付けられてるようで怖くなり、何度も後ろを振り返っていた。
「痛……」
「あっ、ごめんなさい。すみません」
振り返ったりしてよそ見をしていたら、前から来た人にぶつかってしまった。
あれっ?加納さん?
顔をあげた人を見て人違いだという事がわかったが、雰囲気が加納さんに似ていた。そう言えば……加納さん。元気かな?もう随分会っていない。和磨と付き合っていた頃、一度だけ会ったきりだ。ふとポケットの中の携帯を無意識に握りしめている自分に気付く。加納さんに電話するの?今更……。でも和磨と別れた事を、報告しなきゃいけないかな?電話をする口実を考えている自分に観念してアドレスのカ行から加納さんを探し、久しぶりに 加納さんに電話を掛けた。
「もし……」
「ただいま電話に出る事が出来ません……」
留守電だ。どうしよう……でもひと言だけ入れよう。
「沢村です。お元気ですか?急ぎの用事ではないので、またご連絡します」
土曜日の昼下がり、彼氏と彼女が手を繋いだり、腕を組みながら行き交う雑踏の中で孤独感を一層味わってしまう。あぁ、いつからこんな根暗になったんだろう?洋服でも見て帰るか……。一人でショッピングに繰り出て、あれこれウィンドウショッピングをしているとポケットで携帯が鳴った。
―加納―
加納さん。
「もしもし」
「もしもし沢村さん?加納です。電話もらったみたいで、ごめんなさい。ちょっと手が離せなかったから」
「いえ、すみません。お電話頂いてしまって。あの……急ぎの用事じゃなかったんです」
「あっ、それは、向こうにお願い」
電話をしながら静かな場所に急いで移動していたので、電話越しに加納さんの後ろが騒がしいのがよく聞こえた。女の人の声もしている。
「あぁ、ごめんなさい。ちょっとバタバタしちゃってて」
「いえ、こちらこそお忙しいところに電話しちゃったみたいで、すみませんでした。本当に大した用じゃなかったので、また……」
「そうなの?大丈夫?」
加納さん?
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